タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

第7話『こいつら取調室だな』16章

 (〜ウソ言ってんじゃないよ!〜)

 

(多田税理士は、年末にも拘わらず毎日HPに書き込みをしていた。HPの読者の関心を持続させるためであった。そして、電話作戦を継続させたかったのであった。)

 

 12月26日も、多田税理士はHPに何を書こうかと考えていた。なるべく分かり易く税務調査についての知識を一般の人々に伝えようと考えていたのだ。

 

「そう言えば、東京の相続税のベテラン税理士が講師をしていたビデオテープを見たよな。あのビデオでも、税務署は既に家族名義の預金を調べて来るから、家族名義の被相続人の預金があれば、早く出しておいた方がいい、なんて言ってたよな。東京でも、やっぱり税務調査のやり方がおかしいよな。うん、このことを書こう。」

 

 多田税理士は、相続税での税務調査の誤った常識を覆してやろうと考えていたのだ。

 

○平成141226

 相続税法の60条には、相続税や贈与税に関する税務署員の調査について規定しています。簡単に言えば、税務署員は、相続税や贈与税の申告をした納税者に対し質問ができるし、納税者の財産やその財産に関する帳簿書類を検査することができるのです。

 

 しかし、ここで注意すべきことがあります。

 

 税務調査だからと言って、警察官が職務質問するように、誰に対いて質問しても良いという訳ではありません。検査も同様です。

 

 ます、相続税の調査の場合、質問の対象者は、「納税義務がある者や納税義務があると認められる者」となっています。つまり、通常の場合、法定相続人ということになります。相続税は、相続財産を取得した者に課税されますから、相続財産を取得した相続人で相続税の納税額のある人は「納税義務がある者」になります。そして、相続財産を取得しても相続税額のない相続人や、相続財産を取得していない相続人は「納税義務があると認められる者」ということになります。

 

 相続では、一般的に、法定相続人が納税義務者になる訳です。従って、相続税の税務調査での質問対象者は、法定相続人というのが通常のケースです。

 

 また、税務調査では、質問対象者に質問しても内容が把握できない場合には、「反面調査」と言って、ある一定の外部の人や機関に質問することができるのです。これを、反面調査対象者ということになります。

 

 例えば、死亡保険金を支払った生命保険会社は、税務署に法定調書という生命保険金を誰にいくら支払ったかを記載した書類を提出するので、反面調査対象者に該当することになります。

 

 そして、検査の対象となるものは、納税義務者や納税義務があると認められる者(通常は、法定相続人で、今回の場合、母親Eと息子Aの二人)の財産や、その財産に関する帳簿書類です。

 

 通常の相続税の調査では、まず、納税義務者である母親Eや息子Aに質問をし、充分な資料の収集ができない場合に限り、金融機関等に出向いて質問することができるのです。これは、最高裁の判例(昭和48710日)なのです。

 

 しかし、今回の場合には、相続税の調査で初めて税務署員と面会した時には、既に被相続人Dと母親Eと息子Aと息子の嫁Bの各名義の郵便局の定額貯金を調べていたんです。質問の前に、反面調査を済ませてきていたんです。順番が逆なのです。

 

 多くの判例では、「客観的・実質的」、かつ、「合理的」な調査の必要性がある場合に、調査をすることができると結論づけているのです。

 

 更に、今回は、納税義務者や納税義務があると認められる者のいずれにも該当しない息子の嫁B名義の定額貯金も事前に調査してきたのです。つまり、今回の小石川家の相続とは全く関係のない第三者名義の預金を誰の了解もとらずに勝手に調べてきていたのです。

 

 これはもう、プライバシーの侵害以外の何物でもないと思いますが、みなさんいかがでしょうか。

 

「なんかないかな〜」と言って、家族全員の預金を事前に調べてしまう「見込み調査」をしてから、結果で判断しようとしていたんですね。この「見込み調査」は、法律・判例を無視した違法な調査であると言わざるを得ないのです。

 

「そんな法律どおりの順番で調査しても、脱税摘発の実績はあがらない。」との声もあるでしょう、しかし、だからと言って、法治国家において、法を率先して遵守しなければならない国家公務員が、法律を無視して調査して構わない、ということでは絶対にないのです。任意調査の限界は、絶対にあるのです。

 

 ましてや、今回の調査では、息子の嫁Bの承諾もとらないで、いきなり検査した訳ですし、更に、本人の承諾もないままに、第三者である税理士に、息子の嫁の個人情報を開示してしまったのです。そして、当の税務署員は、なんの疑問も感じていない訳ですし、税理士に調査依頼をして当然だと思っているのです。結果として、相続財産であれば良しとするつもりなのでしょうか。

 

 では、結果として、相続財産でなく、息子の嫁個人の財産であることが判明したら、国家公務員法100条に規定する守秘義務違反になるのではないか、との疑問はなかったのでしょうか。

 

 違法を承知で「見込み調査」を行い、納税義務者でもない国民の個人情報を勝手に調べて、しかも、その個人情報を本人の了解もないまま第三者に開示してしまうことは、国家公務員の職権乱用罪(刑法193条)に当るのであり、また、相続税法72条(秘密漏洩の罪)や国家公務員法109条12号の罰則にも該当するのではないでしょうか。

 

 みなさん、いかがお考えになりますか。

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 多田税理士は、沖山税理士からもらった資料を見ながら、日常業務を一時棚上げし、任意調査の限界や納税者の権利について、分かり易く伝えるにはどうのように工夫したら良いものか頭を抱えながら格闘していたのであった。

 

 専門用語を使えば説明も簡単であるが、一般の人は専門用語が出てくると思考停止状態になることも分かっていたので、思考に思考を重ね、読者に少しでも多くの情報を伝えたいと思っていたのだった。大変な作業であるが、本人が一番勉強になったのであった。

 

 納税者の多くは、税務署と警察署を勘違いしているのだ。警察の捜査は、犯罪調査を目的とするが、税務署の任意調査は、犯罪捜査のために認められたものではないのである。

 

 だから、任意調査の場合には、本人の承諾が必要なのである。税務調査を受ける義務はあるのだが、それは、承諾を前提にしているのであり、任意調査には時間日程の許す範囲内で協力すればいい訳で、なんら強制されることはないのである。

 

 多田税理士は、税理士でも税務調査に関する知識や情報が不足していることも実感していた。実は、何を隠そう、多田税理士自身も沖山税理士と出会わなければ、税務調査に対する対抗手段など知り得なかったのである。

 

 また、税務署出身の税理士の場合、自分が過去行ってきた調査手法であるし、自分が後輩に教えてきた調査手法に疑問を抱くこともない。現実に、税務署員自身も税務調査の限界などは教育されていないのだ。

 

 つまり、日本国中の税務関係者自体が、税務調査に関する知識が不足している現状に、多田税理士は突破口を開けたかったのだ。多田税理士のHPへの書き込みは、まだ続く。


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