タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

第7話『こいつら取調室だな』15章

 (〜ウソ言ってんじゃないよ!〜)

 

(沖山税理士の発案による税務署へのお尋ね電話作戦は、功を奏したようであった。山上総務課長の落胆の声を、多田税理士は自分の父親から聞いたのである。しかし、年内の尾戸巣税務署との面会は、小石川の事業の都合で実現しなかった。)

 

 平成14年12月13日に、税務調査の実名報道を多田税理士自身のホームページで開始していた。そして、平成15年1月8日の尾戸巣税務署との面会までの間、正月三が日以外、多田税理士は、連日自身のホームページに日記風の書き込みの更新を繰り返していた。それは、実名報道の関心を長引かせることが目的なのであった。

 

 多田税理士は、悪質な税務調査の実態やその対処方を、ホームページで発表することにしたのだ。

 

○平成14年12月20日

 税務署員は、間違った解釈や適当な判断で、「課税洩れだ」とか「修正してもらわねばいけませんよ」とか言ったり、有りもしない高額な税額を勝手に言って、修正申告の割安感を強調したりします。そして、脅し文句で揺さぶってくることもあります。税理士の方は、税務調査で少なからず以上のような経験を持たれていると思います。

 

 しかし、密室での会話なので、公表されることはありませんし、他の方がどのような税務調査を受けているのかは分かりません。

 

 それに、税務署員は、間違った指摘や違法な調査をしたとしても、何のペナルティーもありません。問題になれば、転勤してそれで終わりです。税理士には、損害賠償のリスクがあり、納税者は加算税や延滞税の突然の資金的負担があります。しかし、税務署員には、何のペナルティーもないのです。ここが、非常に大きな問題だと思います。

 

 決して、刑事告発ばかりすることが、良いことだとは思いません。がしかし、違法な税務調査をすれば、職を失う可能性があることを実感してほしいと思います。税務署員が、気軽に間違った指摘をして修正申告を強要するように、我々税理士が、気軽に税務署員を職権乱用罪とか守秘義務違反で刑事告発するようになってしまっては、申告納税制度という高邁な精神が損なわれてしまうと思います。

 

 税務署も任意調査の限界を理解して、国民・納税者が納得する「適正な」税務調査を望むものです。

 

○平成14年12月21日

 相続税の調査において、家族名義の預金が相続財産だと指摘された場合に、預金預け入れ時の資金移動に関する明確な資料などがなく、その預金が家族のものであった時はどのように対処すればよいか。通常、遺産分割協議書の最後には、将来新に遺産が出てきたら母親(つまり、被相続人の妻)が相続する、という文章を入れることが多いのです。

 

 小石川家の場合、申告財産に加えていない郵便局の定額貯金があり、被相続人である父名義も含め家族全員(被相続人の妻、息子、息子の嫁)分の名義の預金であり、相続財産となっていないことについての説明依頼が税務署からあったのですが、私(多田税理士)は、「もらった」としか聞いてなかったのです。

 

 そこで、税務署が、息子や息子の嫁名義の定額貯金を、相続財産だとして、更正処分してきた場合、その預金は遺産分割協議書の記載の通り、母親が相続した財産だと税務署が認定したことになります。この場合の対処方法は、息子達が自分の預金だと主張する預金を、税務署は、母が相続した財産だと認定するのですから、息子達は、母親に預金を自分達に返還するように裁判所に調停を申し立てることが考えられます。そして、税務署員に裁判所に出てきてもらい、息子達の預金ではないことを証言してもらうのです。

 

 そして、息子達が、父親から定額貯金をもらったのであり、贈与税の申告をしていない場合でも、贈与があった年の翌年3月15日から6年(改正前は5年)を経過しておれば、その贈与税の無申告による利益は享受しなければならないのです。つまり、除斥期間(課税できる期間)を経過しておれば、贈与税の申告も納税もできないのです。このことは、国税通則法という法律に書いてあるのです。

 

 税務署は、除斥期間の説明は、一切してくれません。我々税理士は、家族名義の預金が出てきた場合、この除斥期間の説明をキッチリした上で、家族の方の証言を信頼して、相続財産か家族本人の財産かを判断するより他はないのです。

 

 以上、読者の参考になれば。(小石川夫妻の場合、除籍期間も経過しており、本人のものであるという証言も得ていました。)

 

平成14年12月23日

 平成141125日に、尾戸巣税務署に呼び出された時、税務署員より「売上除外が平成13年は300万円になる。青色申告取消しになる。最後は、署長が決める。」と、言われましたが、これは、誤りです。

 

 説明します。平成1273日付で、国税庁長官から全国の国税局長宛に出された「事務運営指針」では、個人の青色申告の取消しは、隠ぺい又は仮装の事実に基づく所得金額が500万円に満たないときはしない、と書いてあるのです。

 

 つまり、隠ぺい又は仮装の事実があっても、帳簿を備え付け、帳簿記載に関する税務署の指示に従っていれば、500万円に満たないような少額の所得洩れについては、個人の青色申告の取消しはしないように、国税庁長官から国税局に指示しているのです。そして、各国税局から税務署長に指示されていなければならないのです。

 

 にも拘わらず、現場の税務署員は、国税庁長官の指示に従わずに、300万円の売上除外があれば、青色申告が取消しになると言っているのですよ。最終判断は、署長がするとは言いましたが、税務調査の現場では、国税庁長官の指示より署長の判断が優先されるのでしょうか。

 

 国税庁長官の「事務運営指針」などは、末端の税務職員の前では、まったく存在しないのと同じであることが判明しました。

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 多田税理士は、沖山税理士より教わった税法の知識のあらん限りを駆使して、ホームページの読者に訴えたし、情報提供をしたのだった。

 

 そして、小石川夫妻に対する所得税と相続税の税務調査について、その違法性を訴えたのだった。そもそも、税務調査とはいえ、任意調査の限界を始めから知っておけば、「青色申告を取り消すぞ」などといった、税務署員の不当な脅し文句に振りまわされたり、脅えたりしないで済むことを訴えたかったのだ。

 

 そして、多田税理士にとっては、初めて暴力的・ヤクザ的税務調査に出会い、その実態を知り得たことは、世の中の多くの税務調査でも、同様のことが繰り広げられていることも知り得たことになるのだ。

 

 誰かが何処かで、違法で悪質な税務調査に対し、抵抗の声を上げねばならないと、多田税理士は考えていた。まさか、自分にその役が回ってこようとは思ってもいなかったのだが、「税法の師匠」と慕う沖山税理士の「税務署と戦う後姿」を見ていた多田税理士にとって、実名報道を実行するに当って、逡巡する時間はさほどなかったのであった。

 

 また、依頼者である小石川は、確かに所得税の脱税行為をしていたのだが、だからと言って、小石川の人格を否定し、顧問税理士の立場を放棄することはできなかったのである。やはり、依頼者の期待に答えるのが税理士であり、脱税の相談でなければ、例え売上のゴマカシをしていたとしても、納税者としての当然の権利を放棄させる訳にはいかないのだ。

 

確かに、小石川については、心穏やかになれないのも事実だが、税理士としての職務をまっとうしようと考えた、多田税理士であった。

 

 次は、相続税の税務調査の誤った常識を覆すことになる。さて、その内容は如何。


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