タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

第7話『こいつら取調室だな』14章

 (〜ウソ言ってんじゃないよ!〜)

 

(多田税理士のホームページのアクセス件数が急激に伸び、その原因は沖山税理士のおかげと分かった。そして、電話作戦という新たな作戦が開始されたのだった。)

 

 多田税理士は、事務所の自分のイスに座って、腕組をして考えこんでいた。

 

「う〜ん。小石川の奥さん、なかなか調査の日程を知らせて来ないなぁ。山上総務課長が、バカ丁寧に電話してきたのは、電話作戦が始まってすぐのことだから、きっと尾戸巣税務署は大混乱になっているはずだよなあ。謝罪に来るつもりかも知れんよな。だとしたら、電話作戦が効いている内に税務署との面会も済ませた方がいいのかもしれないよな。混乱が収まると、また元の強硬な態度に豹変する可能性は大きいからなあ。」

 

 多田税理士は、市民による電話作戦が尾戸巣税務署の総務課を大混乱させていることを感じとっていた。それは、尾戸巣税務署に電話をかけた人から報告の電話を受けていたからであった。

 

 多田税理士の友人である生命保険募集代理店社長の電話の内容は次のようなものであった。

 

「あー。多田税理士のホームページのことで話しが効きたいんですけど。」と、社長。

 

「あ、はい。お待ち下さい。・・・」

 

「はい、総務課長の山上です。その件につきましてはですね・・。そのお〜、守秘義務がありますので一切お話できませんので・・。」と、山上総務課長。

 

「お話できませんじゃないんだよ。納税者をお宅らは怒鳴って脅したのかどうか教えろっていってんだよ。怒鳴った事実があったのかを教えなさいよ。詳しいやり取りなんかどうでもいいから。」と、食い下がる社長。

 

「いや。ですから。守秘義務がありますから。」

 

「だから、納税者の名前を教えろと言ってるんじゃないんだよ。納税者を怒鳴ったかどうか、教えなさいよって言ってるんだよ。」

 

 社長は、何度聞いても「言えません」の一点バリの対応に呆れてしまった。

 

「もう、いい。ただ、これだけは憶えておきなさい。納税者は非常に怒っているんだからな。」ガチャリ!

 

 多田税理士の父親からの電話作戦の報告は、もう少し会話なるものが成立していたようだ。

 

「あー、もしもしもし。所得税担当の初永さんはいらっしゃいますか。」と、多田の父は尾戸巣税務署に電話をかけた。

 

 

「あ、はい。少々お待ち下さい。・・」と、総務課の若い男性の声が応えた。次に、電話にでたのは、初永上席調査官ではなかった。

 

「あー、もしもし。総務課長の山上と申しますが、初永は外出しておりますが、どのようなご用件でしょうか。」と、丁寧な対応であった。

 

「あー、そうですか。実は、私は、一納税者ということで、初永さんにお尋ねしたいことがあるんですが。実は、多田税理士さんのホームページに掲載されていたことなんですけどね。本当に、税務署員が納税者を前にして机を叩いて、大声を上げて脅した事実があるんでしょうかねぇ。」と、多田の父は、穏やかな口調でゆっくりと話した。

 

「あ、その件でしたら守秘義務がありますので、お話できないんですよ。」と、山上総務課長。

 

「あなたね。話せないとはどういうことですか。あなたは公務員でしょう。一納税者の質問に答えられないんですか。あなたは、納税者の知る権利をなんだと思っているんですか。」と、多田の父は一喝した。

 

「いや〜。すみません。もう、すみませんです。でも、お話しできないもので、申し訳ありません・・・。すみません・・・すみません。」と、受話器の向う側で平身低頭しているようすが感じたられたと、多田の父親は電話中のことを語っていた。

 

 

「そんな、すみませんばかり言ってないで、怒鳴った事実があったのかどうかを話してくださいよ。納税者が、お宅ら公僕である公務員に怒鳴られたたかどうかが知りたいんですよ。」と、しつこく食い下がった多田の父であったが、山上総務課長の「すみません」の連呼にあきれ果て電話を切ったのであった。

 

 おそらく、沖山税理士発案の電話作戦には、多くの市民や税理士などが参加したに違いない。多田の父親は「あの総務課長は相当くたびれとったばい。はぁーってため息ばついとったばい。あーまた例のホームページのことかって相当落胆した声やった」と、山上総務課長の疲れきった対応状況を多田に話していたのだった。

 

 税務署の弱いところとは、そう、一般市民の突き上げの声なのである。市民に開かれた役所のイメージを保持したい税務署にとって、自分達のダークなイメージが知れ渡ることが最も恐いのである。

 

 言ってみれば、自分達の保身でしかないのであるが、一般市民からの事実究明の電話が殺到することは、税務署の「信用」失墜に他ならないからである。

 

 多田税理士は、電話作戦の熱が冷めてしまうことは分かっていた。そうそう何時までも人は怒ってなどいられないものである。そして、市民の忘却の早さを税務署員も熟知しているはずである。彼らは、嵐が通りすぎるのをただじっと待っているのである。

 

 

 

 多田税理士は、実名報道の熱が冷めないように、ホームページの書き込みを毎日続けることにしたのだった。そして、調査の内容や税務署の違法調査の実態とその理論的根拠をホームページで報道しようと考えていた。なるべく多くの市民や税理士の関心を留めておく必要があったのだ。

 

 しかし、実名報道の続きを報道することは、ある種のリスクを増大させることにも繋がることを多田税理士は予感していたのだった。

 

 税務署の報復攻撃があるのかないのか。あるとしたらどんなことが考えられるのか。ヤクザ的な言動に法律を無視した調査手法を繰り返す彼らにとって、一人の税理士にイヤガラセ調査を実行するなどは朝飯前である。多田税理士も、お礼参り調査やイヤガラセ調査が行われることを覚悟していた。通常の任意調査であれば、どんなに連続して調査が行われても、自分の業務の許す範囲の調査しか応じないことを決めていたのであった。完全に税務署に睨まれる存在となった。

 

 しかし、納税者が怒鳴られる税務調査が今後も続けられていいはずもなかった。誰かが声を上げねばならない「時」が来ていたのだった。

 

 12月24日になって、ようやく小石川の妻から税務調査の日程連絡の電話が入った。小石川商店は、米屋であり、年末は正月用の餅の生産に追われており、年内は超多忙状態で、明けて平成15年1月8日の午後2時に小石川宅に山上総務課長が「面会」に来ることになったのである。

 多田税理士は、電話作戦の熱のある内に、税務署との面会を済ませたいと思っていた。先方が謝罪するのかしないのかは分からないのだが、年を越してしまえば、市民や税理士の電話作戦の熱は確実に下がることは明らかであったが、小石川夫妻の都合を考えると年内の税務署との面会は、とうとう諦めざるをえなくなってしまったのである。

 

 そこで、多田税理士は、大晦日までホームページの書き込みを続け、自分達の考えや、税務署の違法・悪質な調査に対する対処法を増やしておくことにした。

 

 そして、年は明け、平成15年の幕が開いたが、税務署との「面会」は、いったいどうなるのだろうか。


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