タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

第7話『こいつら取調室だな』12章

 (〜ウソ言ってんじゃないよ!〜)

 

(多田税理士は、尾戸巣税務署に赴き、山上総務課長に報告書と質問書を渡して抗議した。そして、署内で「怒鳴ったり、机を叩く」調査があったのか調査を依頼して帰ってきたのだった。しかし、追求の甘さを沖山税理士に指摘され、恥じ入ってしまったのだった。)

 

 尾戸巣税務署を訪問してから、ちょうど1週間が経過した。多田税理士は、尾戸巣税務署からいつ謝罪の電話が来るのかと、首を長くして待っていたが、何の連絡もなかったのだった。

 

「う〜ん。尾戸巣税務署からは何の連絡もないなあ。納税者を怒鳴って机を叩いて脅したことが税理士に分かったんだから、当然、謝罪したいと言ってくると思うんだけどなぁ〜」と、多田税理士は、腕組しながら考え込んでいた。

 

 沖山税理士には、ホームページ上で税務署員の実名報道をすると約束していたが、税務署員が謝ってきたら、実名報道はやりにくくなってしまうのだ。多田税理士は、悩んでいた。

 

「向こうが謝ってきたら実名報道できなくなるし、謝ってこないと実名報道することになるし、そうなると謝罪を求めることは難しくなるし。う〜〜ん。」

 

「え〜い。悩んでもしょうがないや。尾戸巣税務署の山上総務課長に電話してみるか。」

 

 多田税理士は、尾戸巣税務署に電話をかけて、山上総務課長を呼び出してもらった。

 

「税理士の多田です。先日のことはどうなったでしょうか。」と、多田税理士。

 

「その件でしたら、検討中ですっっ。」と、そっけなく突き放す山上総務課長の声が受話器から聞こえてくるのであった。

 

多田税理士は、そっけない返事を聞いた途端、ホームページの実名報道を決断した。

 

「納税者を怒鳴って脅しておきながら、1週間経っても検討しているとは何事だ。」と、心の中で叫んでいた多田税理士であった。

 

「あっ。そうですか。また電話します。」と、言って電話を切るや否や、多田税理士はホームページ作成ソフトを立ち上げて、所得税の調査報告書と質問書を自分の主催するホームページの載せたのであった。

 

 多田税理士のホームページは、主に、自分の業務の案内用であり、特段人気があるコンテンツはなく、せめて税務調査の小説ぐらいが興味を引く程度であった。

 

 そして、1日のホームページの訪問者は3人くらいで、開設以来1年間で累計の訪問者数は3,800程であった。

 

 ホームページでの、実名報道は平成14年の12月13日の金曜日で、土日のホームページの訪問者は1日20〜30件程で、通常より増えたものの、さしたる変化はなかったであった。

 

そして、12月16日の月曜日は、出版会議のため、多田税理士は、沖山税理士と会ったので、実名報道の報告をしたのであった。

 

「沖山先生。例の尾戸巣税務署の件ですけど、訪問してから1週間経ったので電話してみたら、『検討中』ってしか言わないんで、実名報道をしましたよ。」と、多田税理士。

 

「ああ、そうね。実名報道したね。うんうん。」と、何度も頷き、満足顔の沖山税理士であった。

 

「多田さん。あんたはね、画期的なことをやったんだよ。税理士が、日本で初めて実名報道をしたんだからね。歴史に残るよ、この偉業は。」と、沖山税理士に絶賛されてしまった多田税理士は、少々照れてしまったが、長年税法を教わった先生から、初めて誉められて嬉しくもあったのだ。

 

「いや〜。そうですか。先生が、実名報道しなさい、とおっしゃるから、1週間遅れでしたけど実行しました。しかし、1週間経っても『検討中』とは、ふざけていますね、尾戸巣税務署は。」

 

「そうね。『検討中』ってしか言わんかったね。そりゃあ謝るつもりなんかないんやろうね。まったく、若造が何言うかって感じだね。ようし、分かった。これから私も応援するからね。」

 

「ホームページはね、みなさん大変なことが起きてますよ〜。こんなことは許されません。っていう感じで、目立つようにしてね。それで、この後はどうするつもりなのね。」と、急に険しい表情で多田税理士を見つめる沖山税理士であった。もう、先のことを考えているのであった。

 

「はい。これから、できるだけ毎日書きこみを続けようと思ってます。日記風にして、税法的な解釈や当方の主張を書こうと思います。それと、これからの税務調査の実況中継をしようと思ってます。」と、今後の対応を話している内に、実名報道の実感が沸いてきた多田税理士であった。

 

多田税理士は、これからの展開を考えると一人では対応できないと感じていた。急に、恐怖感が沸いてきたのだった。

 

「うーん。これから、書きこみを続けるのはいいが、相手がどう出るのか分からんし、一人では難しいよな。今後の税務調査もあるしなあ。大声で怒鳴り返すことはできるけど、沖山先生みたいに冷静に対処しないといかんよなあ。」と、一人で問題を抱え込んでしまうことに、一抹の不安を感じ始めた多田税理士であった。

 

「沖山先生。これからなんですが、一人ではちょっと荷が重いんで、先生も調査に立会ってくれませんか。」

 

「ああ、いいですよ。私も参加しましょう。お金はいらんからね。一緒にやりましょう。」と、沖山税理士はあっさり、今後の対応を引き受けたのだった。

 

「あっ、ありがとうございます。」最敬礼をする多田税理士に、ニッコリ笑って応える沖山税理士であった。

 

 多田税理士は、感情的に高ぶって大声を上げることは出来るのだが、先を読んだ冷静な対応は自信がなかったのであった。多田税理士は、正直「ホッ」としていたのだった。

 

 しかし、正義感の強い沖山税理士の税務調査での対応は、厳しすぎると批判される程過激なのであった。

 

 多田税理士は、沖山税理士の方針にやっとやっとついていく程度であった。

 

 沖山税理士に、ホームページの実名報道を伝えた12月16日の翌日から、ホームページの訪問者数に異常が現れたのであった。

 

 なんと、12月17日には1日255件のアクセスがあり、その翌日の12月18日は1日で590件のアクセスがあり、12月19日にはとうとう1日1,000件を越えるアクセスがあったのだ。ホームページには、訪問者の数を表示する「カウンター」があるのだが、一時は、カウントがストップする程の集中ぶりだったのである。

 

 それは、ホームページの読者から、「私も見たけど、カウントが増えていないのは、どうしてなんですか。」との問い合わせで分かったのであった。怒涛のアクセス数なのであった。衝撃的なデビューと言っていいだろう。

 

 これは、沖山税理士が、多田税理士のホームページでの実名報道を自分の生徒達に知らせたからに他ならなかったのである。

 

 更に、沖山税理士の過激な対応が続くのであった。

 

次号の展開をお楽しみに。


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