タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

第7話『こいつら取調室だな』11章

 (〜ウソ言ってんじゃないよ!〜)

 

(多田税理士は、悩んだ末、調査報告書と質問書を尾戸巣税務署に持参し、山上総務課長に抗議をすることにした。)

 

多田税理士は、尾戸巣税務署の建物の中に入って、階段を上って2階に到着した。尾戸巣税務署は、2階に総務課があるのだ。

 

多田税理士は、何度か尾戸巣税務署には申告書を提出に来ていたが、建物の内部は、これまでと違うように見えていた。

 

2階に上がってすぐ左側に総務課の受付カウンターがある。多田税理士は、近くの若い男性職員に山上総務課長と面会の約束がある旨伝えると、その職員に1階の応接室に案内された。

 

「あーここか。小石川夫妻が怒鳴られて机を叩いて脅されたのはこの部屋だな。」と多田税理士は思った。

 

 この応接室は、3畳ちょっとあるくらいで狭く、机が一つとイスが机に向かって二つずつ並んでいた。多田税理士がイスに座って待っていると、間も無く山上総務課長が笑顔で入ってきた。

 

 お互いあいさつを交わすと、山上総務課長がにこやかに「今日はどのようなことでいらっしゃいましたか。」と、語りかけてきた。

 

「坂行政評価事務所からの電話があったと思いますが・・」と、多田税理士が切り出したが、山上総務課長はまったく反応しなかったのだ。

 

「ん。おかしいな。行政評価事務所から電話連絡が入っているはずなんだが、知らん振りをしているな。よーしこれからだ。」と、多田税理士は思った。

 

 山上総務課長は、穏やかに話しをしようと平静さを装っていた。いや、多田税理士を若造だとナメテいたのだろう。

 

笑顔を崩さない山上総務課長にむかっ腹が立った多田税理士は、声を荒げて「ここに納税者からの調査報告書と質問書があります。納税者が大声で怒鳴られ机を叩いて脅される調査があったことは知っていますか。こんな調査があっていいと思っているんですか。」と捲くし立てた。

 

山上総務課長は、多田税理士の突然の大声にやっと笑顔を消した。しかし、その表情は、動揺も驚きもない無表情である。

 

「調査の内容は、ご存知ですか。」と、山上総務課長は反省の様子もなく、「調査の内容は知っているのか。納税者は脱税をしてたんだ。怒鳴られても当たり前だ。」と言いたいようであった。

 

 多田税理士の頭から「プッツン」と音がしたようだった。

 

「あなたねー。納税者が税務調査で脅されたんですよ。こんなことがあっていいんですかね。詳しくは、この報告書と質問書を見れば分かるんですがね、任意調査で納税者を怒鳴りつけていいんですかね。」

 

「納税者は、恐くて調査を受けたくないと言っていますよ。ここに書いてあることが、事実かどうか署内で調べて下さい。そして、この質問書に答えるまでは調査は受けませんから、そのつもりでいて下さい。」

 

 多田税理士の声が、部屋中に響き渡ったが、山上総務課長は、ひたすらメモをとっていた。しかし、まったく読める文字にはなっていなかった。

 

 多田税理士は、興奮していたが、妙に冷静なところもあって、山上総務課長の読めないメモを見ながら「あんなんじゃ後で読めないだろうに。やはり、内心は動揺しているんだな。」などと思っていた。

 

「ひどいじゃないですか、納税者を怒鳴ったり机を叩いたりして脅すなんて。早く返事をもらわないと、私はホームページを持っていますから、このまま報告書と質問書を実名で公開しますからね。」

 

「相続税の調査でも、反面調査の対象者じゃない人の預金を調べるのは質問検査件を逸脱しているんじゃないですかね。おかしいんじゃないですかね。」

 

 多田税理士は、質問書の内容を口頭で伝え、激しく抗議した。その間山上総務課長は終始うつむき、「それで・それで」を繰り返し、決して誰も読めない文字でメモを走らせていた。

 

 多田税理士も緊張していた。体が硬直し、関節の動きが滑らかではなく、なにかギクシャク動いていることが自分でも分かっていた。

 

 ひとしきり、大きな声で抗議をした多田税理士は、目を見開き山上総務課長を正面から見据えて「良く調べてください」と、言って席を立った。

 

山上総務課長は「確かに受け取りました。」と言うのみで、謝罪の意思表示も大変なことをしたという反省の意思表示も示さなかった。

 

内心相手の動揺や反省を期待していた多田税理士は、拍子抜けしてしまったと同時に、悔しさが込み上げてきた。

 

「クソー。何の反応もないなんてどういうことなんだ。イヤイヤ、あんなメチャクチャなメモの取り方はやっぱり動揺してたはずだ。ウーン。返事を早く貰いたいもんだな。」などと、返りの車中で考える多田税理士であった。

 

 翌週の月曜日、多田税理士は、専門書の共同執筆者らと出版会議に臨んでいた。沖山税理士は監修者として出席していた。会議の合間に、多田税理士は沖山税理士に尾戸巣税務署での山上総務課長との面会の様子を報告していた。

 

「沖山先生。先週の金曜日に尾戸巣税務署に抗議に行ってきました。調査報告書と質問書も手渡してきました。」と、多田税理士。

 

「あーそうね。行ってきたね。それで、その怒鳴った張本人に大声で文句言ってやったね。刑事告発するぞーって言ったね。激しく言わんといかんよ。」と、沖山税理士は、眼光鋭く言った。

 

「えー。いや。本人じゃなくて総務課長に会って抗議してきました。刑事告発とは言わなかったですね。質問書には書いてありますが・・」と、タジタジと返答する多田税理士。

 

「うん。そうね。で、総務課長はなんて言ったね。」

 

「それがですね。ただ、それで・それでを繰り返してメモするばかりで、大変なことが起こったなんて感じはなかったんですよ。メモは、読めないくらいグチャグチャでしたけど。」

 

「そうね。慌てた様子もなかったんだね。そりゃあ、若造が何言うかって感じだね。実名報道するぞっ!て言ったね。」と、沖山税理士。

 

「いやー、確か言ったと思うんですけど。ハッキリ憶えていないですね。質問書には書いてますんで、伝わっているとは思います。」と、多田税理士は、抗議の甘さを指摘され恥じ入っていた。

 

「うんうん。多田さん、あんたもう実名報道せんね。」

 

「はい。そのつもりですが1週間位待とうと思うんです。むこうが謝りたいと言ってくるかもしれませんし。」と、謝罪を期待する多田税理士であった。

 

 金曜日まで尾戸巣税務署からの返事を待ったが、なんの音沙汰もない。多田税理士は、尾戸巣税務署の山上総務課長に電話した。そして、その直後、多田税理士は、ある決断をするのであった。

 

その決断とは・・


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