タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

第7話『こいつら取調室だな』10

 (〜ウソ言ってんじゃないよ!〜)

 

(多田税理士は、小石川夫妻から尾戸巣税務署に呼び出されて、恫喝された状況を聞き、「調査報告書」と税務署に対する「質問書」を書き上げて、沖山税理士からの助言を待っているところだった。そして、沖山税理士から「生ぬるい」と指摘されてしまったのだった。)

 

沖山税理士から、多田税理士の携帯に連絡が入った。

 

「あー。沖山です。今、電話大丈夫ね。うん、大丈夫ね。あのね、「調査報告書」と「質問書」を読んだけどね、まだ、生ぬるいね。「告発状」も書いてもって行かんといかんね。「刑事告発するぞー」って本人に突きつけてやらんね。そしてね、尾戸巣税務署には、副署長はおらんから総務課長に面と向かって、大声で文句言わんといかんよ。」

 

 沖山税理士からの気迫のこもった声に、一瞬、姿勢が固まってしまった多田税理士である。

 

「せ、先生。告発状ですか。今は、そこまでは用意できていないんです。」と返事するのが精一杯の多田税理士であった。

 

「そうね。「告発状」くらい持っていかんといかんよ。そして、しっかり「実名報道するぞー」と言って脅かしてやらんといかんよ。」と、ますます気合の入った沖山税理士の声に、多田税理士はビビッてしまった。

 

『そうかぁ〜!うーん、俺は、そんなに気合を入れんといかんことをしようとしてるんだ。』と、事の重大さに改めて気づき、急に心配になってきた多田税理士であった。

 

「は、はい、分かりました。取りあえず、今回は調査報告書と質問書をもって尾戸巣税務署に行ってきます。」と、多田税理士は答え電話を切った。時間は、午後の2時であった。

 

 多田税理士は、「調査報告書」と「質問書」を郵送するつもりだったのだが、沖山税理士に持って行くと返事をしてしまったのだ。更に、事の重大さを噛み締めることになったのだ。

 

 沖山税理士は、電話の最後に、こう付け加えていたのだった。

 

「それとね。その報告書と質問書を、署長から総務課長から統括官全員に郵送で送りつけてやらんね。」

 

『う〜ん。郵送で済ますつもりだったんだけどなぁ〜。うわー。なんだか、ドンドン事は大袈裟になって行くよなー。どうしよう。沖山先生に、税務署に行くって言ってしまったしなぁ〜。どうしようかなぁ。』と、一人悩み出した多田税理士であった。

 

 多田税理士は、ふと、両親のことを思い浮かべた。多田税理士の両親は、二人とも教員であった。もう、退職して、今は年金暮らしである。

 

 多田税理士は、両親の働く姿を見て、「仕事は一生懸命やるんだぞ」と、受けとめていた。父親は、代用教員出身で、教員免許は持っていたものの、教育学部を卒業している訳ではなかった。

 

 多田税理士の父親は、地元の私立高校を出て、無線の専門学校に通っていたのだが、学費を兄に面倒みてもらいたくなかったので、途中退学し、代用教員になったのだった。

 

 そして、父親の口癖は、「資格を取れ。実力があっても資格がないとどうにもならんぞ。」と、自分の苦い経験もあり、子供の頃から多田税理士に言い聞かせていたのだ。それで、多田税理士も、大学4年生から税理士試験に取り組むようになったのだ。合格まで3年かかったのだが、その間、「大学院にいったつもりで仕送りしてやる。自分の思ったとおりやれ。」と、両親に物心両面から励まされていたのだった。

 

 多田税理士は、両親の顔を思い浮かべながら、考え込んでいた。時間は、刻々と過ぎ、早く決断しなければ税務署は閉まってしまう。

 

『税理士の資格も親が応援してくれたから合格できたようなもんだし、半分は親が資格持っているようなもんだよなぁ。税務署に楯突いて、資格がなくなるようなことになったら親は悲しむだろうなぁ〜。』

 

『国家資格って何やろねー。もちろん、試験は自分の力で勝ち取ったもんだし、国家から認められた資格とは言え、政府や財務省の役人に認めてもらったものじゃあないよなぁ。国家ってなんだろう。』

 

『あっ、そうか。国家とは、民主主義の国では、国民のことなんだ。国民が主人なんだからなぁ。そうしたら、国家資格とは、国民のためにあるんだよなぁ。』

 

『ヒドイ税務調査が行われていると沖山先生から聞いてはいたけど、国民を脅して税金を巻き上げるような調査が実際に目の前で行われたんだよなぁ。』

 

『やっぱり、許せんよなあ、こんなヒドイ調査は。でも、これからも、こんな調査はあるだろうなぁ。このままでいい訳でもないよなぁ。また、ナンクセ付けられて、脅されて納税させられる国民が出てしまうよなぁ。でも、そんなことあっちゃいかんぞ。』

 

『誰かがやらんといかんよなぁ。う〜ん。』

 

『よ〜〜し、俺がよろう!決めた。やるぞ。俺も税務署と戦う沖山先生の生徒なんだからな。これっくらいのことやらんでどうする。そうだ。先生の意思を無駄にしちゃいかんな。』

 

『うん。男の子だもん。大声で文句を言いに行ってやろうじゃあないか。万が一、資格がなくなるようなことがあっても、自分のやらねばならない仕事をやったんだから、絶対、両親も納得してくれるさ。』

 

 やっと、多田税理士の腹は決まった。多田税理士は、国家資格とは、国家の主人である国民から預った資格であり、その国民が脅されてお金を巻き上げられようとしているのに、自分の保身にのみ走ってはいけないと考えていたのだ。そうなのだ、誰かが「違法調査はおかしい」と、大声を上げねばならない時代なのだと、考え至ったのであった。

 

 多田税理士の決断は、両親と沖山税理士の「生きる姿勢」を、その背中から感じとっていたからに他ならない。

 

時間は、午後3時。今から行けば、4時頃には尾戸巣税務署には着ける。1時間もあれば話は終わるだろうと、多田税理士は考えていた。そして、尾戸巣税務署の山上総務課長に電話をした。

 

「もしもし、総務課長さんですか。私、税理士の多田と申します。これから、おじゃましてお話したいことがあるのですが、いらっしゃいますか。」

 

「はい、分かりました。」と、山上総務課長。普通の対応である。

 

「それでは、これから高速で行きますから、4時には着けると思います。」

 

「はい。高速ですか。気をつけて下さい。ハハハ。」と、山上総務課長は、何もないように電話対応した。

 

 多田税理士は、山上総務課長の何の気にもとめない電話の対応に、疑問を感じていた。それは、今日の午後にも坂行政評価事務所の職員から、山上総務課長に苦情相談の連絡をすると聞いていたからだった。

 

 多田税理士は、「おかしいな。苦情相談の連絡が入っているはずなんだけど、普通の対応だったな。」と、行政評価事務所は、本当に電話をしたのか疑問に思いながら、車を走らせ、尾戸巣税務署に着いた。

 

これからの山上総務課長との面談に、緊張した表情の多田税理士。さあ、いよいよ対決である。

次号の展開をお楽しみに。


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