タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

第6話『公務員の常識は非常識』第4章

 (〜訴えてやる〜)

前回3章のあらすじ

(質屋の金庫の中では、声が大きく響くので、玲子は多田税理士の声に驚いてしまった。その後、バッグの中の印鑑を押印したりして調査は進んでいったが、多田税理士は糸山調査官への嫉妬心からか、納税者のプライバシーの侵害について熱く語っていた。糸山調査官は金融機関の調査に向かった。)

 糸山調査官から多田税理士に電話が入った。金融機関の調査が終了し、尋ねたいことがあるので、調査の日程を調整してほしいとの連絡であった。

 多田税理士は、忙しいの一点張りで、なかなか日程をとろうとはしなかった。異常にひねくれてしまった多田税理士であった。

 やはり、お見合いパーティーで意中の人が税務署員を選んだことが悔しいのであろう。日程を1ヶ月後にずらしたのだった。何の意味があるのだろうか。

 2度目の調査の当日である。糸山調査官は、9時25分に近藤宅を訪れた。ほんどの場合、税務署員は約束の時間より早く来るのである。税理士抜きで話したいことでもあるのだろうか。

 多田税理士は、調査の時間より30分は早く着くようにしていたのだった。今日もいつもと同じである。


 税務署員が来る前に、多田税理士と談笑していた玲子は落ち着いていた。やはり、税務調査の際には税理士は心強い味方である。

 糸山調査官が、応接室に入ってきた。玲子はお茶の支度で応接室におらず、多田税理士と糸山調査官の二人が応接室に残された。

「多田先生がお見合いパーティーに来ていらっしゃるとは思いませんでしたよ。先生は、税理士先生だから、モテルんじゃないですか。僕は、美穂さんと知り合えて良かったですよ。彼女美人でしょう。性格も良いですよ。理想の花嫁って感じですよ。彼女が、安定思考で良かったと思ってますよ。」と、話しかける糸山調査官であった。

「ああそうですか。僕もまあ社会勉強に行っただけですからね。そうでなきゃ、行きませんよお見合いパーティーなんか。おっしゃるように、実際、お見合いの話が多くて、断るのに大変なんですよ。」などと、目一杯、見栄をはる多田税理士であった。

 多田税理士は、43才になって急に家庭を持ちたくなったのだが、時すでに遅し。やはり、40才を過ぎると見合いの話などはまったく来ないのだった。

 多田税理士は、お見合いパーティーで美穂を見て、一目惚れをしてしまったのだ。しかし、夢はかなわなかった。最後のチャンスがなくなってしまったと落ち込んだり、あの税務署員がいなかったら、なんとかなったかも知れない、などと、いつまでも諦めきれない多田税理士に、ノロケ話とも聞こえる糸山調査官の話は、多田税理士をイラ立たせるのであった。

 玲子が応接室に入ってきて調査再開である。

「奥さん、お宅と取引のある銀行を調べてきました。申告の内容どおりの預金がありました。結構、貯まっていますよね。」と、糸山調査官。

「いえ。そんなでもありませんよ。ただ、主人が亡くなる5年前に、主人のおばあちゃんが亡くなって、その時に相続した預金が結構あるんですよ。主人が貯めた預金は、あまりないですよね。」

 玲子は、聞かれもしないことを話し出した。

「あばあちゃんは元々資産家の娘で、不動産を結構持ってたんですけど、主人と主人の妹の二人に相続でもめないように、不動産を処分したみたいですよ。」

 玲子は、ここまで話すと急に「ハット」気づいたように、黙ってしまった。何かを思い出したのだ。

 多田税理士は、急に黙り込んだ玲子を不思議に思ったが、話しかけることはしなかった。

 そこで、糸山調査官が切り出した。

「ところで、そのご主人の妹さんですが、佐々木良子さんですよね。ご主人より随分多く預金を持っていらっしゃるんですね。」

「え、そんなに多いんですか?私は、主人の妹の預金なんて知りませんよ。」

 玲子は、亡くなった夫の妹の預金のことなど知る由もなかった。

しかし、玲子は、夫の妹と夫の母親の会話の内容を思い出し、「しまった」という気持ちになっていた。


 糸山調査官は、カバンから資料を取り出した。

「ここにご主人の妹さんの預金の明細があるんですが、この預金はどうしてできたのか聞いてもらいたいんですけど、お願いできますか。」

「えっ、妹にですか。うーん、いいですけども・・・。」と口ごもる玲子であった。

「あっ、これは、多田先生にお願いした方が良いかも知れませんね。先生、このリストの定期預金ですが、妹さんにどうやってできたのか聞いてもらえませんか。当方としては、是非とも知りたいところなんですよ。」

 多田税理士も困惑してしまった。「なんか、今回の調査はいつもとちがうよな。なんで、亡くなったご主人の妹さんの預金を調べなきゃいけないんだろう。」と、胸中は疑問を感じながらも、渡された資料に目を落とした。

 ところが、資料を見てびっくり。そこには、30程の定期預金のリストが書いてあった。総額2,000万円にはなる。

 多田税理士は、今回の税務調査とどんな関係があるのか、糸山調査官に尋ねるが、兎に角お願いしますと言うだけであった。

 糸山調査官は、「リストに書いてある定期預金の出所が分かったら連絡して下さい」と言い残し帰ってしまったのである。

 玲子が、多田税理士に心配そうな顔で話してきた。

「多田先生、実は・・。昔聞いてしまったんです。」

「主人の妹ととおばあちゃんが、やっぱり税金は払いたくないねえ、と言っていたのを、聞いていたんです。もしかしたら、土地を売った税金か、相続税をごまかしているかも知れないんですよ。」

「なぜ、そう思うのか分からないと思いますが、あの二人お金には執着心がものすごく強いんですよ。自分のお金は使わないで、人に使わせるんですよ。だから、私はあまり妹とは付き合ってなかったんですよ」

やはり、脱税した預金のリストなんでしょうかね

 多田税理士は、びっくりしてしまった。もし、母親の相続財産に洩れがあると、亡くなった近藤氏の財産が増えて、修正申告になる可能性もある。

 それに、亡くなった近藤氏の妹の預金を調べることに疑問を感じた多田税理士は、沖山税理士に尋ねることにした。

 沖山税理士に尋ねると、びっくりする回答が帰ってきたのだった。

「とんでもない税務署員がいるもんだ。訴えてやると言ってもいいぐらいだよ」と、沖山税理士は言う。いったい何があったと言うのか!

この後、とんでもない出来事が起こってしまうのだ。


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