タックスエンターテイメント小説 〜
「税務調査最前線」

第6話『公務員の常識は非常識』第2章

 (〜訴えてやる〜)

前回1章のあらすじ

(多田税理士は、お見合いパーティーに出席した。その会場で、気になる女性を見つけたが、その女性は安定した職業の公務員を指名した。そして、多田税理士に勝利した公務員が、なんと税務署員だったのである。これからの税務調査で、自分が振られたことを実感させられる多田税理士は平常心を失ってしまうのか。)

 

 税務調査当日、多田税理士は近藤宅の応接室にいた。

 

「よりにもよって、あいつと税務調査で会うことになるとは思ってもみなかったなぁー。あの娘かわいかったよなぁー。」と、ため息ばかりついている多田税理士であった。

 

 近藤家は、亡くなった夫が25年程前、博多駅前で質屋を始めていたのだった。妻の名は玲子という。

 

 玲子は、夫の質屋の仕事を手伝ってはいたが、自分では店を継ぐ気はなく、現在は、質ぐさの整理をしていた。

 

 うつむいてため息ばかりついている多田税理士に玲子が声をかけるのであった。

 

「多田先生、どうしたんですか。具合でも悪いんですか?さっきからうつむいてばっかりで。」

 


「いやいや。なんでもないんです。大丈夫ですよ奥さん。」と、平静を装う多田税理士であった。

 

「ピンポンー」と玄関のチャイムが鳴った。博多税務署の糸山調査官の到着である。玲子が応対に出て、応接室に連れてきた。

 

「多田先生ですか。私は、博多税務署の資産税担当の糸山と申します。本日は、ご苦労様です。」実に丁寧な挨拶であった。一見、さわやかな好青年である。

 

 多田税理士は、丁寧な挨拶がかえって気に入らない様子であった。

 

「多田です。よろしくお願いします。糸山さんでしたよね。先週の日曜日にお見受けしましたよ。」と、パーティー会場にいたことをさりげなく伝えたのだった。

 

「先週ですか?日曜日は、私は・・・・」と考え込む糸山調査官は、お見合いパーティー会場にいたとは言えずにいたが、多田税理士の顔を見て思い出した様子であった。

 

「ああ、先週の日曜日にお会いしてますね。それは、どうもどうも。」と話す糸山調査官だが、次になんと言っていいやら困った様子であった。

 

「あら、多田先生。こちらの方とお知り合いなんですか?」と、不思議がる玲子であった。

 

「いいえ!知り合いなんかじゃありませんよ。先週たまたま会っただけですよ!」語気の荒くなった多田税理士に驚く玲子だが、お茶を持ってくると言って応接室を出ていった。

「いやー多田先生。奇遇ですね。」と、糸山調査官は話しかけてきた。

 

「カップルになられて良かったですね。」と言わざるを得ない多田税理士であったが、糸山調査官は、ニコニコ顔で話しかけてきた。

 

「どうも、ありがとうございます。あの後、美穂さんとは食事して、4時間くらいお互いのことを話しましてね。すっかり意気投合しましたよ。素晴らしい女性ですよ美穂さんは。本当に俺ってラッキーだなって実感してますよ。ホント。」一気にデートの様子を話す糸山調査官であった。

 

「そうか、美穂さんって言うんだ。クソー。聞きもしないのにべらべらしゃべりやがって。」と思いつつ、彼女と糸山調査官が仲良く談笑している様子を想像しながら、悔しがる多田税理士であった。

 

「よかったですね。お似合いですよ。ただ、今日は、調査ですから、プライベートな話はこの辺にしましょう。」と多田税理士は、糸山調査官の話を中断させたのであった。

 

 そうこうしているうちに、玲子が応接室に戻って来た。いよいよ、税務調査の始まりである。

 

「では、さっそくですが。ご主人は、ご自分で質屋を始められたんですか。宝石の鑑定なんか難しいですよね。ご主人自身も、宝石とかに興味があったんでしょうかね。仕事以外に何か趣味とかはあったんですか。」と糸山調査官が、玲子に質問する。

 

 税務調査での税務署員は、何気ない日常会話であっても、相手の出方を観察しているものである。


 趣味の話などは、典型的な質問である。つまり、趣味にはしっかりお金を使うのが普通だから、趣味に関するもので申告洩れがないか、探っているのである

 

「質屋は主人が始めたんです。体が弱くって、自宅でできる仕事はないかといろいろ調べて、結局、質屋にしたんですよ。それと、主人はあまり人と話すのが好きではなかったし、特別趣味もなかったですね。」

「ああ、そうですか。そこの質屋時代の入り口の横のスペースは何ですか。車庫ですか。家の中ですよね。」

と、糸山調査官は、車一台程入る屋内のコンクリート敷きのスペースを見ながら言った。

「あそこは、以前は駐車場にしてたんですよ。主人は足も悪かったから、すぐ車から家に入れるように、屋内に車庫を作ったんですよ。そう言えば、昔どろぼうがあの車庫に隠れてて、閉店後に襲われたことがあるんですよ。私は、そこの金庫の部屋に閉じ込められたんですよ。あの時は、怖かったわー。」と、玲子は、以前、盗難があったことをしゃべり始めるのであった。

 多田税理士は、傍で聞いていてハラハラしていた

「奥さん余計なこと話さなきゃいいのになぁ。沈黙に耐えてくださいってあれだけ言ったのに。しゃべり過ぎだよなぁ。」と、心の中で思いつつ二人の会話を黙って聞いている多田税理士であった。

「そうですか。どろぼうですか。大変だったですね。ああ、そこが金庫の部屋ですね。このドアは頑丈ですね。金属製ですか。これじゃあ、閉められたら中から空けるのは無理でしょうね。」と関心した様子の糸山調査官であった。

「奥さん、ご主人が以前使われていた印鑑はありますか。よろしかったら、ここに持って来てくれませんか?」と糸山調査官は、玲子にやんわりと依頼するのであった。

「はい。いいですよ。金庫にありますから、取ってきますね。」と玲子が答えると、「じゃあ一緒にいきますね」と言いながら糸山調査官が玲子についていった。

そして、多田税理士も二人の後に続いた。金庫の中にはほとんどガラクタしか置いてないことを多田税理士は知っていたのである。

 玲子が金庫の中に置いてあったハンドバッグを空けて中から印鑑を取り出そうとした時、突然、糸山調査官が早足で玲子の隣に移動し、玲子のハンドバッグを覗こうとしたその瞬間、あることから玲子はハンドバッグを落としてしまうほどの大きな衝撃を受けてしまったのである。

 玲子は、驚きのあまり、目をしっかりとつぶり、耳に両手をあてて、体を硬直させているのであった。

 一体金庫の中で何が起こってしまったのだろうか?大きな衝撃とは何なのだろうか?

 

 次号をお楽しみに!!


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