タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

第6話『公務員の常識は非常識』第1章

 (〜訴えてやる〜)

 今日は日曜日。

多田税理士は、福岡市内のホテルのロビーに座っている。さっきから、タバコを何本も立て続けに吸っている。

まったく、落ち着きがない。

多田税理士は、腕時計を見てゆっくり立ち上がり、目的の部屋の受付に着いた。

「多田です。もう受付しても良いですか」と、係りの者に尋ねる。

「ああ多田さんですね。結構ですよ。お待ちしておりました。会費は、7,000円です。」と受付係の女性が答える。

 多田税理士は、何かの会合に来ているのか。

 多田税理士は、受付を済ませ、部屋の中に入っていった。ホテルの部屋は立食パーティーが行われるような円卓が5つほど置いてあり、壁沿いにイスが置いてある.

 部屋の中は、男女合わせて40人程がいた。女性同士話している者もいれば、一人で資料に見入っている者もいる。ここは、何の会場なのか。


 ここは、「お見合いパーティー」の会場なのであった。

 多田税理士は、43才独身である。やはり、人の子なのであった。

 仕事仕事の毎日で、気がつけば40代半ばに差しかかり、一人暮しの寂しさに気が付いたのであろう。

 このお見合いパーティーは、安定した職業についている30才以上の男性と、25才以上の女性を対象としたパーティーで、VIPコースとなっていた。

 男性の職業も、公務員、医者、実業家、一定年収以上の会社員と限定されているのであった。

 司会者が登場し、いよいよパーティーの始まりである。まず、参加者の名前を呼ばれ、指定された円卓に並ぶように言われる。一つの円卓に女性4人男性4人が並ぶことになる。

 そこで、その円卓にいる者同士が話をする。そして、20分程経過したら、男性だけが隣の円卓に移り、女性はそのまま動かない。

 こうやって、全員の女性と話をしてゆくのである。途中、ゲームなどをやって雰囲気をなごませながら、会話しやすい雰囲気を演出するのだ。

 そして、一巡して元の円卓にもどり、意中の候補を3名ほど決め、相手の名前を自分の記入用紙に記入して、主催者に渡すのである。

 そして、お互いに指名してカップルになると、前に出て行って、参加者の祝福の拍手を受けるのである。

 女性の職業も様々であった。看護婦、幼稚園の先生、OL等。今回の女性陣は、30代が多いようである。

 多田税理士は、気になった女性がいたが、相手も指名してくれるとは限らない。他の男性参加者は、全て30代前半であり、40代は多田税理士一人であった。

 明らかに、多田税理士にとって不利であった。

「あー、疲れるな。なんか恥ずかしいな。やっぱり来なけりゃ良かったなあ。でも、もしあの娘とカップルになれたらいいよな〜」などと、期待とあきらめの気分が交錯する多田税理士であった。

 もう既に、2組のカップルが出来上がっていた。そして、最後のカップルの紹介だと司会者が案内した。

 最後のカップルに多田税理士は選ばれるのか。

 司会者が呼び上げた名前を聞いて、多田税理士は「ドッキリ」したのだった。そうです、多田税理士の意中の女性がまず司会者に呼ばれたのであった。

 そして、司会者の口から呼ばれた男性の名前は。

 多田税理士は、意中の女性と話した会話を思い出していた。彼女は、福岡生まれの福岡育ちだということ。趣味は、ピアノと旅行。休日には、家族にピアノ演奏をしてあげたり、半日かけて料理を作ることが多いという彼女に、心惹かれている自分に気が付いた多田税理士は、自分の名前を呼んでくれと、心の中で叫んでいた。

 司会者が、呼び上げた名前は・・・・


 「糸山さん」であった。司会者が、女性にマイクで気持ちを聞いていた。

「やっぱり、公務員の方が安定してて安心だったから」と、彼女は答えたのだった。

 

 多田税理士は、心臓の当りがヅキンと感じたのだった。まるで失恋のショックと同じ気分であった。

「やっぱりな。そんなに簡単に彼女ができる訳ないもんなあ。あ〜〜。今日は、飲むぞー」と、多田税理士は、一人中州の屋台で飲んで休日は終わった。

 翌朝、多田税理士は、完璧な二日酔いであった。

失恋の気分と、二日酔いの気持ち悪さで、朝から機嫌が悪い多田税理士であったが、博多税務署から税務調査の連絡が入って来たのだった。

 電話の相手は、資産税の係だと事務員が伝えた。資産税の係とは、相続税や贈与税、そして、土地の譲渡にまつわる税金の担当係のことである。

多田税理士は、1年程前に、博多駅の近くに住む近藤家の相続税の申告をしていたのだが、今回の税務調査は、その近藤家の相続税の調査であった。

 多田税理士は、仕方なく受話器をとって話始めたのだった。

 「博多税務署の資産税担当の糸山と言います。近藤さんの相続税の税務調査にお伺いしたいのですが、多田先生のご都合はいかがでしょうか。」

 多田税理士は、一瞬耳を疑った。

「確か、糸山と言ったな。そう言えば、昨日の彼女の相手が糸山と言ってたよな。もしかして、その糸山?でも、偶然すぎるよな。糸山と言っても沢山いるからな」と、多田税理士は昨日のお見合いパーティーのことが忘れられないでいるようだった。

 日程調整を終えて電話を切る多田税理士は、何か嫌な予感を感じていた。そして、その予感が的中することになるのであった。

 そうです、税務署員の糸山とは、お見合いパーティーで多田税理士が破れた、公務員の男だったのです。

 そして、この糸山という税務署員は、博多税務署の中でも勤勉で通っている男であった。

 しかし、その勤勉さ故に、多田税理士ととんでもない攻防戦を繰り広げることになるのである。

 そして、多田税理士は、糸山調査官と会うたびに「自分が振られた」という事実を嫌と言うほど実感させられるのであった。

 多田税理士の嫉妬にも似た執念は、どんなかたちで燃え上がるのだろうか。次回をお楽しみに。


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