タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

第6話『公務員の常識は非常識』第3章

 (〜訴えてやる〜)

前回2章のあらすじ

(多田税理士は、お見合いパーティーでの意中の女性に振られてしまったが、その女性に選ばれた男が税務署員で、税務調査で会うことになってしまった。そして、税務調査先の質屋の金庫の中で、あること、に玲子は驚いてしまった。)

 

「奥さん、見せたくなければ見せなくていいんですよ!」

 

 と、多田税理士の大声が金庫中に響いた。

 

 あまりの大声に、玲子はびっくりしてしまい、ハンドバッグを落としてしまい、耳をふさぎしゃがみこんでしまった。

 

 多田税理士は、なぜ、そんな大声を出したのだろうか。税務署員へのいやがらせなのか。

 

 糸山調査官も、びっくりした表情で多田税理士の方を振り向いた。

 

 「多田先生、一体そんな大声出して、なんなんですか。びっくりしましたよ。」と糸山調査官が、多田税理士に話かけてきた。」

 その時の、多田税理士の表情も意外なものであった。

 

多田税理士自身も、自分の声に驚いた顔をしていたのだった。

 

「いやー、驚かせてすみません。金庫の中がこんなに声が響くとは思ってもみませんでした。奥さん、大丈夫ですか。」と、多田税理士は、しゃがみこんだ玲子に声をかけた。

 

「先生、びっくりして心臓が止まるかと思いましたよ。急に大きな声だされるんですもん。」玲子は、ホットした表情に戻って、ハンドバッグを拾って立ちあがろうとしていた。

 

「いやー。すみません。急にハンドバッグを空けられるもんだから、プラインバシーを守ろうと思ってとっさに大きい声になったんですよ。

 

「奥さん、印鑑だけ出せばいいんですよ。ハンドバックの中身はプライバシーですから見せる必要はありませんよ。」と、多田税理士は、糸山調査官をけん制するように、キッパリと玲子に伝えたのだった。

 

「いえ、多田先生。このハンドバッグは印鑑しか入ってませんから見せてもいいんですよ。」と玲子。

 

糸山調査官は、少々困惑した表情になっていたが、玲子がハンドバッグを見せると、中身をしっかり見ていた。

 

「奥さん、ハンドバッグはもういいですよ。多田先生がプライバシーだとか言われてるんでね。ハンドバッグの中の印鑑をこの用紙に押してみてくれませんか。」と糸山調査官は、多田税理士の方は無視して、玲子に催促していた。

 

「ハイハイいいです。」と気軽な玲子。

 

「あ、奥さん。朱肉なしで一度押して下さいね。そして、その後で、朱肉を付けた印鑑を押して下さいね。」との糸山調査官の注文に応えて、税務署員の指定した用紙に印鑑を押していく玲子であった。

 

 このような印鑑の押し方を指定するには訳があった。つまり、印影を確保することと、直前に使用した印鑑なのか、ほとんど使用していない印鑑なのかの確認の必要があったからである。

 

 ほとんど使用しているはずのない印鑑が、使用されていれば、相続発生前に、被相続人の預金を現金化しているかもしれないと考えられるからだ。

 

 税務署は、金融機関に調査に入る権限があり、金融機関が保存している、預金の引出票のコピーを持って来て、筆跡を確認することもあるのだ。

 

 そして、被相続人(この場合だと亡夫)の代わりに、預金の引出しなどしたことがないと言いながら、実際には、預金の引出しをしていれば、引出票の筆跡が被相続人でないと分かってしまう。そしたら、その引出票は誰が書いたのか、ということを納税者は追及されることになる訳である。

 

 もし、そうなった場合、納税者の返答がおかしかったりシドロモドロだと、これは何かあると見られてしまい、税務調査も長引くことになる。

 

 しかし、問題は『証拠』なのだ。疑わしいだけでは、課税処分をする訳にもいかないし、その後の裁判でも負けてしまうので、税務署も証拠集めに躍起になるのである。

 

 そして、そこに大きな落とし穴があることがある


これから、とんでもなく大きな落とし穴を見ることになるのだ。

 

 多田税理士は、何か言わないと気が納まらない様子である。それは、嫉妬心からなのだろうか。

 

「奥さん、プライバシーは税務調査でも守ってもらえるんですよ。今回の調査は、任意の調査なんで、納税者の方は強力してあげればいいんです。必要な範囲だけね。だから、私物が入っているタンスの引出しを理由も無しに見せる必要はないんですよ。」

 

なんかないかなー。といって家の中を探すことを捜査っていうんですよ。任意調査に捜査権はありませんからね。」

 

 多田税理士は、更に続ける。

 

「それに、税務署員がいつまでも税務署員でいるという保証は何もないですからね。こないだも、問題を起こして辞めた税務署員がいたじゃないですか。むやみやたらに家の中を見せるもんじゃあありませんよ。奥さんのとこは、ドロボーに入られた経験もあるじゃないですか。ねえー。」

 

 やっと、言いたいことを一方的にしゃべった多田税理士は、お茶に手をのばした。

 

 糸山調査官も黙って聞いているだけではなかった。

 

「先生、なにもそんなに言わなくてもいいじゃないですか。不祥事や事件で退職する人はほんのわずかですよ。常識から言って、極端な例で話をされては困りますね。」と、一言付け加える糸山調査官であった。

 

 多田税理士は、それでも自説を主張する。

 

「でもですね。資産家の方が、誰にでも簡単に家の中を見られて、財産の保管場所を知られてしまったら危険じゃないですか。財産を守るためには、些細なことにも気を配らないと、万が一が起こってしまっては取り返しがつきませんからね。用心には用心ですよ。」

 

 糸山調査官は、自分が事件や不祥事を起こして退職するかも知れないと言われて、少々不機嫌な顔になっていた。

 

 多田税理士も、少々言いすぎたとは思っていたが、恋敵に負けた気分で一杯だったのだろうか。

 

 この日の調査は程なく終了し、次回は金融機関を調査してくるとのことで、糸山調査官は帰っていった。

 

「奥さん、今日はご苦労さまでした。別に何も問題はないですよ。安心してて下さい。」と多田税理士。

 

 しかし、この後、税務署中を大混乱に落とし入れる事件が起こってしまうのである。

 

 公務員の常識とは・・・

 

 次号をお楽しみに!!


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