タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

第5話 『呪われた飲食店』第7章

 (〜病気になったのはなぜ〜)

 前回6章のあらすじ

(『小料理ふじやま』のおかみ、静江は、すっかり弱気になっていた。脱税など身に覚えはないが、こんな嫌な思いをするくらいなら、預金1,000万円の申告漏れを認めて楽になりたいと考えていた。一方、多田税理士は、売上の証拠とも言える売上伝票を紛失していても、青色申告の記帳と保存義務に違反していないことが分かり、俄然、元気づいている。多田税理士の反撃が見物である。)

 静江は、鬼仏神社のバチが当ったと考えていた。そうでなければ、急に病気になることもないし、税務署に犯罪者を見るような目つきで見られるようなこともないと、自分を責める静江であった。

「私が、お参りを止めたのがいけないんだ。いっそのこと売上洩れを認めて、早く楽になりたいわ。脱税なんて、身に覚えがないのに嫌だけど、みんな私の責任なんだし。」と、静江は売上洩れを認めて、早く税務調査を終わってしまおうと考え始めていた。

  堤調査官は、余裕である。外から帰ってきた多田税理士に話かけるのであった。

「多田先生。用事ができたんなら帰ってもらってかまいませんよ、私は。」相変わらず、ふてぶてしい堤調査官である


 多田税理士は、携帯電話で沖山税理士から今後の対策を伝授してもらい、元気になっていた。

「あなたは、売上の証拠である売上伝票が保存されていないと、青色申告違反になるし、即、脱税したことになると言いますが、一体どういう法律の第何条に書いてあるんですか?」と、多田税理士が堤調査官に話しかける。

「そんな法律の何条だなんて今は覚えてないですが、だいたい、売上の証拠を保存してないことがいけないんじゃないですか」と、堤調査官は指摘する。

 今度は、多田税理士が反論する。

「売上伝票は確かに売上の証拠資料と成り得るものだけれど、青色申告で作成義務のある帳簿ではないし、伝票会計を採用している訳ではないので、作成義務も保存義務もないものなんですよ。」と、沖山税理士の受け売りをする多田税理士。

「青色申告で、作成も保存も要求されていない売上伝票を紛失してしまっても、なんら問題ないじゃないですか。売上の記録としては、レジペーパーの控えもあるし、現金出納帳もちゃんとあるじゃないですか。」

 多田税理士の話に納得しない堤調査官。

「売上伝票が、青色申告の記帳義務があるものかは、署に帰って検討しますが、じゃあ、レジペーパーや現金出納帳の売上が正しいと、どうやって証明するんですか。どうなんですか、多田先生」

 多田税理士は、沖山税理士の話を思い出していた。そして、その通りの展開になって驚いていた。

「あー、沖山先生が言ってた通りのことを税務署員が言ってきたなぁ。この質問の答えはわかっているんだぞー。」と心の中で、ニヤリと笑い反論する多田税理士であった。

「青色申告の記帳義務ははたしているんですよ。それに、レジペーパーの売上金額が正しいかどうかを証明する義務まで納税者あるんでしょうか。どこにそんな条文があるんですか。」

「納税者が申告してきた内容が真実でないという証明は、税務署がするべきことじゃないんですか。わが国は、申告納税制度なんですよ。納税者が脱税をしたという証拠は、税務署がしなきゃならん事でしょう。どこに脱税した証拠があるんですか。」

 多田税理士の反論に、驚いている堤調査官だが、そうですね、と簡単には引き下がらない。

「確かに、脱税したという証明は我々税務署にありますが、納税者自ら脱税を認めて修正申告することもできるじゃないですか。」堤調査官は、あくまで脱税にこだわっている。

 二人のやりとりを聞いていた静江は、ホットした表情になっていた。

「そうか、うちの売上伝票は、紛失してても問題はないんだ。そうなんだ、知らなかった。てっきり、売上の証拠がなくなったんで、悪いことをしてしまったと思ってたけど、税金の申告のうえでは、何の影響もないんだわ。」

静江は、多田税理士を頼もしく思っていた。そして、脱税してないんだから、堂々としようと心に決めた。


 堤調査官は、静江に話しかけてくるのだった。

「ねえ、奥さん。この1,000万円の預金は売上金から貯めたんですよね。そうですよね。奥さん。」堤調査官は誘導してきた。

静江はゆっくり起き上がり答える。「いいえ、その預金はこの商売を始める前に貯めてたものです。それに、この商売を始めて貯めた預金もありますが、キチンと申告はしています。そんな脱税なんかしていませんよ。」

「ほら、奥さんも売上をゴマカシテいないと言っているし、売上伝票がないからと言って、即、脱税をしたことにはならんでしょうし、あまり失礼なことばかり言ってもらっても困りますね。」と、多田税理士は、すっかり強気になっていた。

「それに、青色申告に必要な帳簿や領収書の保存はしている訳だから、その記録に間違いがあると言うんなら、その証拠はあなたたち税務署が証明しなきゃならんことでしょう。私が、何か、おかしなことを言ってますかね。」と話す多田税理士であった。

 堤調査官は、「う〜ん。売上伝票の作成義務と保存義務については署に戻って調べますが、これで調査が終わった訳ではないですからね。」と言って、席を立った。

 その時、多田税理士が一言。

「作成義務も保存義務もない売上伝票がないからと言って大騒ぎしないでいただきたい。迷惑だ。」当初、売上伝票がないと分かった時の多田税理士とは別人のような力強い一言に、堤調査官は、悔しそうな顔を残して帰って行った。

 ことの次第を見守っていた、主人の藤山一郎は、多田税理士に感心してしまっていた。

「多田先生。ありがとうございました。税務署員も帰ってしまいましたね。始めはどうなるものかと心配したんですが、よく形勢逆転できましたね。」

「先生ありがとうございます。安心したら、すっかり楽になりました。立ちくらみもすっかりなくなりましたよ。」と、静江は体調も楽になり、少々元気が戻ったようだ。そして、「病は気から」という言葉を思い出していた。そして、バチが当ったなどと考えることは止めることにした。静江は、鬼仏神社のお参りを再開しようと心の中で決意していた。

「ちょっと二日酔いで調子がでなかっただけですよ。あんなもんですよ税務調査は。アハハ。」などと、強がる多田税理士であった。

 この後、税務調査が再開されることはなかった。

 次回は、『公務員の常識は非常識』〜訴えてやる〜
  
 大興奮ですよ!


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