〜 タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

第5話 『呪われた飲食店』第5章

 (〜病気になったのはなぜ〜)

 前回4章のあらすじ

(『小料理ふじやま』のおかみ静江は、売上伝票が見つからないことで、税務署員から激しく追及されてしまって、遂に、意識もうろうとなってしまった。多田税理士は、売上の証拠がないとどうしようもない、と思っており、対応に苦慮している。

そして、静江は、病気の原因がなんなのか気がついたようであった。)

 

 堤調査官は、床にしゃがみこんでいる静江と店主の一郎に、追撃の言葉を発するのであった。

 

「いいかげんに白状したらどうだい。売上金をゴマカシテいたんだろう。」と、堤調査官。

 

 さすがに、多田税理士も堤調査官に食ってかかった。

 

「そんな、床に倒れている病人にむかってなんてこと言うんですか。それにまだ、証拠もなにも出てきてないじゃないですか。ちょっとひどすぎやしませんか。」

 

「それに、奥さんも病気で苦しそうだから、少し休ませてあげたらいいじゃないですか。」と、多田税理士。

 

堤調査官も、言いすぎたことを反省したのか、静江を店の座敷に休ませることに同意したが、税務調査を止めるとは言わなかった。

 

 


 多田税理士は、どうしていいのか分からないでいた。そして、ある人物の顔を思い出すのであった。

 

「そうだ、こんな時は沖山先生に電話してみよう。きっと何か解決策がみつかるさ。」と、多田税理士は考えた。そして、『小料理ふじやま』のトイレに入り、沖山税理士に携帯電話で連絡をとった。

 

 呼び出し音が聞こえるが、沖山税理士は携帯電話にでない。7回8回9回、ついに10回呼び出してもつながらない。

 

 多田税理士は、あせった。「沖山先生。なんとか電話に出てください。お願いします。このままじゃどうにもならないんです。」と、心の中で叫んでいた。

 

 しかし、2度目の呼び出しも携帯電話は呼び出し音ばかりであった。

 

 沖山税理士は、携帯電話を風呂場まで持ちこんで、相談の電話に備えている人物であった。電話がつながらないはずがない。

 

「おかしい。こんなことはなかったのに」と、多田税理士は動揺している自分に気がついていた。しかし、連絡がとれない。

 

「お願いです。電話に出てください。」と、心の中で叫ぶ多田税理士の思いが通じたのか、電話がつながった。

 

「お沖山先生ですか。多田です。」

 

「ああ、あんたね。いま講義中だから、後でこっちからかけるから。」と言って、沖山税理士は携帯電話を切ってしまったのである。

 

「あっ、沖山先生」と、言い終わらないうちに携帯電話が切れてしまって、多田税理士は呆然と携帯電話を耳にあてたまま、トイレの便器に座り込んでしまった。

 

あ〜、どうしよう。これからどうしたらいいんだ。奥さんは大丈夫なのかな。売上の証拠がないんだもんな。どうにもならんよな。なんて言っていいか、正直わからないんだよなぁ。」と、多田税理士は弱気であった。トイレからでるタイミングを失った。

 

 多田税理士がトイレに入って10分が経過した。しかし、沖山税理士からの電話は来ない。

 

 観念した多田税理士は、対応のあてもなく、仕方なくトイレをでて、堤調査官の前に戻ってきた。

 

 藤山夫婦は、店の座敷にいた。堤調査官は、店のカウンターでゆっくりとタバコを吸っていた。まるで、勝利の祝杯をあげているようであった。

 

「おや、多田先生。随分トイレ長かったですね。体の調子でも悪いんですか。飲みすぎなんじゃないですか。気をつけたほうがいいですよ。ハッハッハ。」と、笑いながら話し掛ける堤調査官であった。

 

 内心ムッと来た多田税理士であったが、気を取りなおして堤調査官に、今日のところは税務調査を終わってくれるよう話すのだが、頑として言うことを聞かない堤調査官であった。

 

 一方、店の座敷では、静江が横になっていた。店主であり夫の藤山一郎は、静江の顔を心配そうにながめながら、おしぼりを額にあてながら、「こんな体調の悪いときに税務調査を続けるなんて言わなきゃいいのに」と、静江の無謀さにあきれていた。


 静江は、だんだん意識がハッキリしてきた。そして、急に高血圧の症状に襲われた原因を考えていた。

 

 『小料理ふじやま』の店舗の裏山には、古びた小さな神社がある。静江は、27年前に、夫の一郎と店を開店する前夜に、夫には内緒でこっそり神社に行ってお参りをしていたのであった。

 

 そして、神社で願をかけていたのであった。

 

「今日から私は、毎日、お参りに来ます。どうか、店が発展しますように。お客様に愛される店になれますように。お願いします。もし、一日でもお参りに来なかった時は、どんなヒドイ目にあっても構いません。どうか、主人と私の店を繁盛させてください。」と、静江は一心にお参りをしていたのであった。

 

 そして、実際に、旅行で店にいない時以外は、毎日、裏山の神社にお参りに行っていたのであった。

 

 この裏山の神社は、鬼仏神社といい、ご利益もあるが、バチもあたると言われており、特に、願をかけてご利益をいただいたのに、約束を守らないと、その一家は呪われると言い伝えられているので、地元の人は怖がって、お参りする人もあまりいなかったのである。

 

 静江は、そんな鬼仏神社の言い伝えなど、知る由もなかったので、願をかけてしまったのである。

 

 静江は、最近、鬼仏神社の言い伝えを近所の人から聞いていたのだが、自分ではお参りを止めるつもりはまったくなかったので、すっかり、言い伝えのことは忘れていたのであった。

 

 しかし。ある日のことである。

 静江と一郎は、ささいなことで大喧嘩をしてしまったのであった。

 

「ふん、なによ。あんたのために毎日お参りしてあげてるのに。もう、お参りなんかしてあげない。」と、静江は、その日以来、鬼仏神社へのお参りを止めてしまっていたのであった。

 

 静江は、鬼仏神社の言い伝えを思いだしていた。そして、願をかけてご利益をいただいたのに、お参りを止めてしまったので、自分が病気になってしまったんだと、思いだしたのだ。

 

「あー、やっぱり。言い伝えは本当だったのね。これから私は呪われてしまうんだわ。税務署が来たのも、病気になったのも私のセイなんだわ。」と、お参りを止めてしまったことを後悔する静江だった。

 

 と、その時。多田税税理士の携帯電話が鳴った。沖山税理士からの電話である。

 

 さあ、これから、沖山税理士の登場である。起死回生の展開が始まるのか?

次号をお楽しみに。


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