〜 タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

第5話 『呪われた飲食店』第3章

 (〜病気になったのはなぜ〜)

 前回2章のあらすじ

(『小料理ふじやま』に税務調査が入った。多田税理士は、通常、当日の税務調査は断るようにしていたのだが、顧客の要望で当日中に『小料理ふじやま』まで出向いて行ったのである。そして、博多税務署の堤調査官は、現金出納帳を見るやいなや、大きな声で多田税理士に、現金出納帳のことで指導がなっていないと、文句をつけてきたのである。)

 

 『小料理ふじやま』の現金出納帳は、何がおかしいのだろうか。多田税理士は、堤調査官から思いがけない指摘を受け、動揺してしまうのだろうか。

 

 いやいや、そんなことはなかった。多田税理士は、平然としている。静江は、多田税理士が、どうして、平気でいられるのだろうか、と不思議に思っていたのであった。

 

 


 静江は、以前、多田税理士から現金出納帳の書き方を教わった時のことを思い出していた。

 

「そう言えば、多田先生も、帳簿はなるべくボールペンで書きなさいと言っていたけど、私が書きなおす時に汚くなるのが嫌だから、鉛筆で書いていたのがいけなかったのかしら。どうしましょう。税務署の方は、なんか怒っているみたいだし・・・」

 

 多田税理士は、静江の心配をよそに、平然として、堤調査官に返答をするのであった。

 

「この現金出納帳の、どこがいけないんですかね。ちゃんと現金残も合ってますよ。」と、多田税理士。

 

 平然と答える多田税理士に、堤調査官は、何をバカなことを言っていると言わんばかりに反論してきた。

 

「何をいってるんですか。鉛筆で書いたら、後で簡単に書き換えられるじゃないですか。一度書いたら消えないボールペンかなんかで書かなきゃダメでしょう。」

 

多田税理士は、落ち着いている。

「鉛筆で書いたら、確かに、消したり書き換えたりできますけど、それで何がいけないんですか。いいじゃないですか。」

 

それじゃ、こちらでは、現金出納帳を書き換えているということですか。それは、問題ですね。事実を記載しなきゃいけないでしょう。多田先生は、帳簿は鉛筆で書くように指導してるんですか。それは、正しい指導をしてないんじゃないですか。帰って上司に報告しますよ。」と、堤調査官は、厳しい目つきで多田税理士に話すのであった。

 

 

多田税理士の反論である。

 

「ちゃんと真実を記載してますよ。鉛筆で書いてたら、即、書き換えてることになるんですか。書き換えている証拠がどこにあるんですか。確かに、鉛筆で書いてると、書き換えは可能ですよ。でも、だからと言って、必ず、書き換えをしているとは言えないでしょう。上司にでもなんでも報告しなさいよ。」

 

 多田税理士の反論は、まだ続く。

 

「それに、書き換え不可能な筆記用具で、書きなさいと、どの条文に書いてあるんですかね。そんな条文があるんだったら教えてもらいたいですね。」

 

 条文と言われて、堤調査官は困ってしまった。しかし、黙ってはいない。

 

「条文なんか知りませんよ。でも、常識でしょう。書き換えるつもりがないなら、消せないボールペンみたいな筆記用具で書くべきですよ。」

 

多田税理士も一歩も引かない。「税法の条文のどこに書き換え不能な筆記用具で書きなさいと書いてあるんですか。鉛筆で書こうがボールペンで書こうが、それは、納税者の自由です。強制される理由はない。」

 

キッパリ言いきってしまった多田税理士に対し、これ以上反論できないと思った堤調査官は、怒った表情そのままに黙ってしまった。そして、沈黙の時間がしばし流れていった。

 

険悪な空気に居たたまれなくなった静江は、「これからは、ボールペンで書くようにしますよ。多田先生それでいいでしょう。」

 

 


静江は、なんとか息苦しい雰囲気から抜け出たい気持ちから、多田税理士に話かけるのであった。

 

「まあ、奥さんがボールペンで書かれるのなら、それはそれで、構いませんよ。」

 

多田税理士の言葉に、堤調査官も納得したのか、他の資料を確認することにしたのであった。

 

 『小料理ふじやま』の店主で静江の夫である一郎は、ただ黙って税務調査の様子を見ていたのだが、静江の高血圧が気になって仕方ないのである。

 

「静江、気分はどうだ。少し休ませてもらったらどうだ。ねえ、いいでしょう。」と、一郎は静江の体調を気にして堤調査官に話しかけた。

 

 ところが、堤調査官は、「本当に奥さん気分が悪いんですか。顔色はいいみたいですよ。まだ、いいでしょう。ね、奥さん。」と、自分の都合を優先させたいようであった。

 

「奥さん、気分が悪かったら休まれて結構ですよ。」と、多田税理士は静江に話すのだが。

 

 静江は、自分が病気になったことが、何故なのか思い当るところがあるのか、自分を責めているようだ。

 

「いいえ、大丈夫ですから。先に進めて下さい。」

静江は、税務調査を早く終わらせたかったのである。

 

 堤調査官は、「ほら、奥さんが大丈夫って言ってるからいいじゃないですか。じゃあ、奥さん、売上伝票を見せてもらえませんか。」と、容赦ない。

 

 

「分かりました。どれぐらい前までの売上伝票を持ってくればいいですか。」と静江は質問する。

 

「じゃあ、過去5年分ぐらい持ってきてもらえませんか。それと、レジペーパーもお願いします。」

 

 静江は、程なく売上伝票とレジペーパーを持ってきたが、浮かない顔で、「あのー。売上伝票は、過去3年分しか残ってないんですけど。いいでしょうか。」と堤調査官に話すのであった。

 

その時である。

急に、堤調査官の表情が険しくなった。

 

そうです、この後、とんでもない事態になってしまったのです。

 

多田税理士は、堤調査官の激しい追求に、困り果ててしまっている。

 


 「万事休す」となってしまうのか!

 

 この後、いったい、どうなってしまうのだろう。

次号をお楽しみに。


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