〜 タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

第5話 『呪われた飲食店』第2章

 (〜病気になったのはなぜ〜)

 

 多田税理士は、二日酔いのせいで、朝から憂鬱な気分で事務所に出勤していた。

 

 多田税理士には、仕事で知り合った金融マンが多くいるのだが、その中でも、食通の二人とは、飲み友達となっていたのである。

 

ちなみに、多田税理士は、独身の43歳である。仕事一筋で、女性に縁がなかったのか、気軽な独身生活を満喫しているのである。そして、食通の金融マンが誘ってくれる店は、なかなか美味い店が多いので、多田税理士もすっかりなついてしまっているのである。

 

 そんな、気分が落ち込んでいる時に、事務所の電話が鳴ったのである。

 

「所長、『小料理ふじやま』の奥さんからお電話です。税務署が来ているみたいです。」と女性事務員が、多田税理士が気分悪そうにしている様子に気を遣って、小声で話すのであった。

 

「多田先生、税務署が自宅に来てるんですが、どうしたらいいでしょうか」と、『小料理ふじやま』の奥さんが不安そうな声で話す。

 

「税務署ですか。また、事前通知なしで来ましたね。税務署員と電話を替わって下さい。」と、更に、気分が落ち込む多田税理士であった。

 

「もしもし、博多税務署の堤と言います。今日は、税務調査でお伺いしているんですが、先生はいつ来られますか。」と、相変わらず、自分たちの都合を押し付ける税務署員である。

 

 もちろん、多田税理士も素直に税務署員の言うことを聞く訳ではない。

 

「あなたね、人の都合も考えないで、いきなり来い、と言うのは失礼でしょう。今日のところは帰って、日程調整してからにしましょう。税務調査を受けないとは、言っていないんだから」と、いつものように、当日の調査対応を断る多田税理士であった。 

 

「いいですよ。先生は来られなくても。奥さんとご主人にお話が聞ければいいですから。それに、『ふじやま』さんは、店休日でないと、ご迷惑でしょうから。」と、簡単には引き下がらない、堤調査官であった。

 

 多田税理士は、堤調査官に、今日は調査には行かないことを話そうとした時、電話の声が、藤山の妻「静江」の声に替わっていたのである。

 

 多田税理士は、気分が悪いので、あまり外に出たくなかったのだ。

 

「先生、私達は、店休日でも構わないですよ。税務調査なんて、早く終わってもらいたいから、早く始めて早く終わりいんですけど。先生の都合はどうですか。」

 

 『小料理ふじやま』の妻、静江は、今から来てほしいと、多田税理士に頼むのであった。

 

「分かりました。奥さん。幸い今日は予定が入っていないので、今から行きましょう。税務署員には、何も見せないで待たせててくださいね。」

 

 多田税理士も、顧客の依頼であるし、予定もないことから、早めに終わらせようと考え、税務調査に向かうことにしたのである。

 

「うーん。きのうヒレ酒を飲みすぎたから、まだ気持ち悪いなあ。あのお二人さんと飲むとつい飲みすぎるんだよなあ。」と、自分の自制心のなさを、金融マンのせいにする多田税理士であった。

 

 『小料理ふじやま』は、マスターの藤山一郎が、博多に帰ってきて初めた料理屋である。 

 

藤山は、関東で運送業を行っていたが、自分が通っていた小料理屋の料理に魅せられて、運送業から一転、料理人の道に進んだ、一風変わった経歴の持ち主なのである。

 

 多田税理士が、藤山の店舗件自宅に到着した。

 

税務署員の堤と挨拶を交わし、いよいよ、税務調査の始まりである。

 

「奥さん、過去3年分の資料を見たいんですが、こちらに持ってこれますか。」と、堤調査官。

 

 税務調査は、自宅の座敷で行われていたのである。

 

「はい。では、部屋から持ってきますので。」と、藤山の妻、静江が立って歩こうとすると、その時、足元がふらつき倒れてしまったのである。

 

「静江、大丈夫か。」と、マスターの藤山が、奥さんに声をかけた。幸い、藤山の肩をささえにしていたため、大きく倒れたのではなく、ケガもなさそうである。

 

 静江は、2〜3日前から血圧が高くなって、立ちくらみが起こるようになっていたのである。そんなにヒドイ立ちくらみはなかったので、すっかり忘れていたのだが、慣れない税務調査とあって緊張したのだろう。

 

 しかし、静江本人は、自分の体調の変化に、何かを感じているようである。少し考え込んだ後、静江は再び立ちあがって、歩きだそうとした、その時。

 

「どこにしまってあるのか見せて下さいね。」と、堤調査官は、静江について行こうとした。

 

「ちょっと待ちなさいよ。勝手に人の家を見て回るのは、プライバシーの侵害でしょう。」

奥さん、ついて来てもらいたくなければ、そう言って構わないんですよ。」と、多田税理士は堤調査官と静江に話すのであった。

 

堤調査官は、多田税理士から指摘されて、静江について行くことは止め、座って静江の帰りを待っているのだが、不機嫌な顔をしているのが、多田税理士にも分かる程であった。重苦しい沈黙の時間である。

 

そして、静江が持ってきた現金出納帳を見るや否や、、堤調査官は、大きな声で話し出すのであった。

 

「こんな現金出納帳がありますか。なんですかこれは。多田先生も何を指導してるんですか。」鬼の首を取ったような堤調査官。

 

とんでもないことが起こってしまったのか。

 

税務署員に激しく詰め寄られる多田税理士は、いったいどうするのだろうか。

 静江は、何を感じていたのだろう・・・。



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