〜 小説 〜

「税務調査最前線」

第3話 4章『家政婦は見た!』

 (そんなことまでしなくちゃいけないの?)

 

 前回3章のあらすじ

 

(多田税理士は、税務署の任意調査は、警察の行なう捜査ではなく、あくまで、納税者の承諾が必要なことを力説し、通帳等の重要書類を取りに行く池田氏に同行しようとする税務署員を、引き止めたのであった。しかし、多田税理士は、税務署から申告上のミスを指摘された。そして、税務署員は、池田氏に対し、税務署長に、自分が預金を隠していたことを謝罪する文書の提出を要求した。多田税理士は、どんな対応ができるのであろうか。)

 

 池田氏は、山中調査官より、財産を隠していたことに対する謝罪文を書くように要求され、困惑していた。

 

 多田税理士も、自分の申告書上のミスの指摘に混乱していた。頭の中はパニックだった。

 

 池田氏は、多田税理士に救いの手を求めた。

 

「多田先生、どうしても上申書を書かなければいけないんですか。」

 

 多田税理士は、池田氏の言葉にまったく反応していない。自分のことで、頭が一杯で、池田氏の言葉に気がつかないでいる。

 

 池田氏は、更に、多田税理士に話かける。

「先生、どうしましょうか」

 

 「えっ、なんですって。ああっ、そうか。上申書ですよね。」

 

 「うーん、上申書ですか。今までこんなこと言われたことはないですね。」と、池田氏に返答して考え込んでしまう多田税理士であった。

 

 そして、多田税理士は急に席を立ち、池田氏を連れて応接室を出ようとした。

 

 慌てたのは家政婦の市原田である、「うわーコッチに来るみたいだわ。早く隠れないと。」

 

 家政婦は、応接室のドアに聞き耳をたてていたのである。慌てて動こうとしたので、転んでしまい。ドスンという大きな音をたてて、倒れてしまったのである。

 

 多田税理士は、山中調査官に「上申書の件で話し合いますので、ちょっと席を外させていただきます」と言って、池田氏を連れて応接室を出ようとしたトタンに大きな音がしたので、ビックリして応接室のドアを開けたのである。

 

 ドアの向こうには、シリモチをついた家政婦の市原田が、腰をさすっていた。

 

 「大丈夫ですか」との多田税理士の言葉に、家政婦はやっとの思いで答えるのであった。

 

『見つかってしまった、何とか言い訳を考えなきゃ。』とっさに、「すみません、歩いていたら急に洗濯物を干しっぱなしにしているのを思い出して、慌てて物干し場に引き返そうと思ったら、すべってしまったんです。」一瞬のひらめきに強い市原田であった。

 

「気をつけなさいよ。」と池田氏。

 

家政婦は、ゆっくり起き上がり、物干し場に向かっていった。

 

「池田さん、トイレはどこですか。」と多田税理士は、池田氏に聞き、さっさとトイレに入ってしまったのである。

 

そうです、例の「トイレ電話」です。多田税理士は、沖山税理士に緊急相談の電話をかけたのであった。

 

「もしもし、沖山先生ですか。多田です。今税務調査の現場からなんですが、いいですか」

 

沖山税理士が答える。「はいはい、どうぞ」

 

多田税理士は、池田氏が預金を隠していたこと、税務署員が上申書を書くように要求していることを、沖山税理士に相談したのであった。

 

「そうね、そんなこと言ってきたね。その件は、よく相談されるよ。」と、沖山税理士は、税務署員から上申書を要求される例が他にもあることを話してきかせ、対応方法を話し出すのであった。

 

「そしたらね、その上申書を書くのは法律に決まってるんですか。それは、強制なんですか。法律に決まっているんだったら、何の法律のどこに書いてあるんですか。って言えばいいよ。」と沖山税理士は、税務署の任意調査では、警察のように調書を書かせることなんかできないことを、多田税理士に教えたのであった。

 

「沖山先生、分かりました。そう言ってみます。ありがとうございました。」と話す多田税理士に、「はいはい」と言って電話を切る沖山税理士であった。なんとも、あっさりした対応である。決して偉そうにしない沖山税理士は、同業者の中でも人気がある。 

 

 


池田氏を連れて、応接室に戻った多田税理士は、山中調査官に話し出すのであった。

 

「上申書を書くのは、強制ですか。強制なら、何の法律にもとづいて強制されるんですか。どの法律のどこに書いてあるんですか。正確に教えて下さい。ハッキリした理由がなければ、上申書は書きません。」

 

山中調査官は、「池田さんのように、財産を正しく申告していない場合は、上申書を出してもらうようにしてるんです。」

 

「だから、上申書なるものが、何の法律によって強制されるのか教えてもらわなければ書けませんよ。任意であれば、お断りします。」と、多田税理士。

 

「でも、財産を正しく申告されてなかったので、そのことを書いて頂くだけで結構なんです。」と、山中調査官は引き下がらない。

 

「財産が正しく申告されてなかったら、修正申告すればいいじゃないですか。なんで、そんな謝罪文みたいなもの書かなきゃいけないんですか。人に行動を強制するには、それなりの理由が必要ですよ。法律に強制されないんだったら、上申書なんて書く必要はありません。お断りします。」

 

キッパリと言い放つ多田税理士の言葉に、山中調査官は返答できなかったのである。

 

その後、池田宅での税務調査は程なく終了し、税務署員は帰っていった。そして、山中調査官の指摘のとおり、土地の評価ミスを確認した多田税理士は、修正申告書を持って、池田宅を訪問したのである。

 

応接室での会話が始まった。

 

  

「池田さん。すみませんね。やっぱり、土地の評価については、税務署の言うことが正しかったですよ。」と、多田税理士は池田氏に話すのであった。

 

「いえ、先生いいですよ。私の方こそ税務署員から言われた上申書を書かなくてホットしているんですよ。なんか、犯罪者扱いで非常に気分が悪かったですからね。税務署も随分ヒドイこと言うんですね。」

 

池田氏は、多田税理士に礼を言って、修正申告書にサインをした。多田税理士は、今回の税務調査では、修正申告書を出してしまい残念で仕方なかった。

 

家政婦は、シリモチの後の話が聞けずに残念がっていたが、「また、なんかおもしろいことないかな」などと思いながら、家事をこなしていた。

 

次回、第4話は、「タレコミだな」

〜こんなことは許されないぞ〜

 

 いったいタレコミがどうしたんでしょうか。許されないこととは、いったい何なのでしょう。

 次号第4話も、お楽しみに!

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