〜 小説 〜

「税務調査最前線」

第3話 3章『家政婦は見た!』

 (そんなことまでしなくちゃいけないの?)

 

 前回2章のあらすじ

 

(池田氏は、父親名義の郵便局の貯金を多田税理士に伝えていなかったが、山中調査官の「郵便局の貯金はないのか」という質問に、ついに、池田氏は、本当のことを話したのである。つまり、申告していない父親名義の郵便局の貯金があったのである。そして、その通帳を取りに行こうとした池田氏に、山中調査官は同行しようとしたのである。多田税理士は、どんな対応をするのであろうか。)

 

 多田税理士は、山中調査官に向かって発言するのであった。

 

「待って下さい。今回の調査は、あくまで任意調査でしょう。裁判所の令状があるわけではないんですよね。強制調査ではなく、任意調査ですよね。

 


「任意調査であれば、納税者の承諾を得て、財産に関する帳簿書類を検査することができることになっている訳だから、ちゃんとした納税者の承諾を求めなきゃいけないんじゃないですか。」

 

 そして、多田税理士は、池田氏にアドバイスをするのであった。

 

 「池田さん、自分の家を見せたくなければ見せなくてもいいんですよ。プライバシーは、税務調査でも守ってもらえるんですよ。奥さんも、病気で寝ていることだし、あえて、通帳の保管場所まで見せなくていいんですよ。」

 

 「どうします、池田さん。郵便局の通帳と他の関係書類を持ってくればいいんですよ。何かないかといって、部屋中を捜すのは「捜査」になるんですよ。税務調査は、警察の「捜査」ではありませんよ。見せたくなければ、見せなくてもいいんですよ。」

 

「税務署の人が一生役所に勤務しているとは限らないんですよ。最近も、不祥事をおこして退職した新聞記事があったじゃないですか。大切な財産の保管場所をむやみに他人に教えない方がいいんじゃないですかね。」

 

多田税理士は、一気に話すのであった。

 

池田氏は、「見せたくないです。通帳と簡易保険の証書を持って来ますので、待っていて下さい。」と発言し、一人で奥に入って行った。

 

山中調査官は、とっさの多田税理士の発言で、「それでも見に行く」とは言えず、あきらめて席について池田氏の帰りを待っていた。

 

 

多田税理士も調査官も、何も言葉を交わさない「沈黙の時間」が、静かに流れていった。

 

応接室でのやりとりを聞いていた、家政婦の市原田は、あわてて応接室をはなれ、台所に戻ったのである。

 

市原田は興奮していた。ドックンドックンと心臓が高鳴っていた。

 

「ダンナさんの顔、真っ青だったわねー。そうとう緊張しているみたいだわ。そりゃそうよね、ゴマカシてたことが、あっさりバレたんだもん。」

 

「でも、税務調査っていろいろあるのね。強制調査っていうのは、映画で観た「マル査の女」みたいに、裁判所の捜査令状で、強制的に家宅捜査をするようだけど、任意調査って「マル査の女」みたいじゃないのね。ちゃんと、プライバシーも守れるんだ。」

 

「へえ〜、ってなもんね。でも考えてみると、奥さんの寝室に税務署員が入っていったら、やっぱり問題だと思うわよね。だって、奥さんが寝ている寝室に入らなきゃいけない理由なんて、ちょっと考えられないもんね。これから、どうなるのかしら。楽しみだわー」

 

家政婦の市原田は、にわか税務調査の評論家になって、一人でぶつぶつしゃべっていたのであった。

 

一方、応接室の沈黙を破ったのは、山中調査官であった。

 

「多田先生、そう言えば、土地の評価が違ってますよ。佐世保市はよくあるんですよ。この手の間違いが」

 

 多田税理士は、何のことだか分からないでいる。

 


「いったいどんなことなんですか、土地の評価での間違いというのは?」

 

山中調査官は、多田税理士に、土地の評価の間違いについて説明するのであった。

 

「先生、この番地の土地は、倍率方式ですよね。先生の評価も倍率方式なんですが、先生は、固定資産税評価額にそのまま倍率をかけてありますよね。実は、佐世保市は国土調査が終了しているんですが、登記簿の面積と市の固定資産台帳の面積が違ってるんですよ。」

 

「つまり、固定資産台帳の面積が登記簿の面積よりせまくなっていて、その実際よりせまい面積のままの固定資産税評価額になっている訳ですよ。」

 

「ですから、1uあたりの固定資産税評価額に実際の面積をかけて評価しなければならないんですよ。よくあるんですよね。この間違いは。」

 

多田税理士は、頭が真っ白になっていた。

 

「えっ、どういうことなんだろう。土地の評価が間違ってるはずないんだけど。でも、調査官の言うように、国土調査が終わっていれば、登記簿の面積が実際の土地の面積とみていい訳だし、単純に固定資産税評価額に倍率をかけて評価すると、実際より少ない評価額になってしまうよな。」と、多田税理士は、考え込んでしまったのである。

 

そうこうする間に、池田氏が書類ケースを持って、応接室に帰ってきた。

 

「これが父名義の郵便局の通帳と簡易保険の証書です。」と言って、書類ケースを机の上に置く池田氏。

 

山中調査官は、厳しい口調で、池田氏に言うのであった。「これで全部ですね。もう隠していることはありませんね。」

 

「はい、これで全部です。」と、元気なく答える池田氏に、山中調査官は、とんでもない発言をするのであった。

 

「では、池田さん。今から私が言うことを、そのとおりに紙に書いて下さい。」

 

「いいですか、上申書、佐世保税務署長殿 私は、父の相続税の申告に当り、多田税理士にも報告せずに、父名義の郵便局の貯金と簡易保険を隠していました。大変申し訳ありませんでした。」

 

この話を聞いていた、家政婦は心の中で思わず叫んだのである。「えー、なんでそんなことまでしなくちゃいけないの」

 

  多田税理士の対応は、大丈夫か?

 

 次号(最終章)をお楽しみに!

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