税務調査最前線

第3話 2章『家政婦は見た!』

 (そんなことまでしなくちゃいけないの?)

 

 前回1章のあらすじ

 

(池田家に相続税の税務調査が入った。池田氏は税務調査に不安を持っている様子。そして、池田家に派遣された家政婦は、野次馬根性のかたまりのような女性であった。そして、池田氏も家政婦も税務署員の質問にドッキンとしてしまった。何故、なんだろうか。)

 

 佐世保税務署の山中調査官が、池田氏に質問を始めるのであった。

 

 「池田さんの申告書を拝見させていただきました。そこで、質問なんですが、お父さんは郵便局に貯金などは持ってなかったんですか。申告書には記載されてないようなんですが。」

 

 この税務署員の質問に、池田氏は、ビックリしてしまった。

 

 そして、応接室の様子に聞き耳をたてていた家政婦もビックリしてしまった。

 

 なぜ、池田氏のみならず、家政婦まで税務署員の質問にビックリしてしまったんだろうか。

 

 池田家に派遣されている家政婦は、市原田 節子と言う。年齢55歳、独身である。

 

 この家政婦の市原田は、池田氏の妻が病弱なため、妻の看病と家事の手伝いに来ていたのであるが、市原田には、他人の家庭をのぞき見る趣味を持っていたのである。

 

 そして、市原田は、池田氏の妻のベッドメーキングの時に、ベッドの下に、池田氏の父親名義の郵便局の貯金通帳を見つけていたのである。もちろん、市原田は、郵便局の預金通帳をどうこうするつもりなどはまったくないのである。

 

 ただ、なぜ父親名義の預金通帳が、奥さんのベッドの下に隠してあるんだろうかと不思議に思っていたのである。そして、「なにかある」と感づいた市原田は、夫婦の会話を注意深く聞いていたのである。

 

 そして、多田税理士が、相続税の申告のために池田家を訪問する前日に、市原田は、池田夫婦のとんでもない会話を聞いていたのである。

 

 「ねえ、あなた。お父様の郵便局の貯金通帳をこんなところに置くのは止めて下さいよ。ちゃんと、多田先生に報告しなきゃ、多田先生に迷惑がかかってしまうじゃないですか」と、池田氏の妻は言う。

 

 池田氏は、「何をいってるんだ。お父さんがせっかく残してくれた財産じゃないか。何でもバカ正直に出すことなんかないんだよ。仕事仲間から以前聞いたことがあってね。郵便局の貯金は税務署にはバレないらしいんだ。郵政省と大蔵省と管轄が違うから、分かりっこないってことなんだ。

 

 「それに、お向かいの高田のばあさんの話じゃね、10年前の親戚の相続の時にね、郵便局の貯金がバレなくて助かったって話をしてくれたことがあったじゃないか。大丈夫だよ。」と、妻を説得するのであった。

 

 「いくら税務署だって、病気で寝ているおまえのベッドをひっくり返したりするもんか。」

 

 「おまえは、多田税理士に会わなくていいよ。」

 

 池田氏の妻は、夫の言い分に納得させられてしまったのである。

 

そして、その二人の会話を、家政婦の市原田は、しっかり聞いていたのである。

 

 しかし、市原田は、本当に、郵便局の貯金の存在を、多田税理士に伝えているのか、そうでないのかまでは知らなかったのである。

 

 だから、税務署員が、郵便局の貯金が相続財産に含まれていないことについて質問した時に、家政婦は驚いてしまったのである。

 

「やっぱり、旦那さんは、多田税理士さんに郵便局の貯金通帳のことを隠していたんだ。へエ―、そうなんだ。この後どうなるんだろう。興味津々だわー。」と内心ワクワクしている家政婦の市原田であった。

 

税務署員の質問に答える池田氏。

 

「はい、ありません。」あまり元気のない声である。

 

山中調査官は、「そうですか」と言って、カバンから資料を取り出して、机の上にゆっくり置いてから、池田氏の目をじっと見ながら話すのである。

 

「ほんとうに、郵便局の貯金はないんですね。」

 

山中調査官の口調も厳しくなってきた。

 


「ハイ、ありません。」と、再度答える池田氏は、顔面蒼白である。

 

「ご主人、私どもの調べでは、確かにお父さん名義の郵便局の貯金があるんですがね。通帳の番号も言いましょうか。」

 

「もう一度聞きます。お父さん名義の郵便局の貯金はありますか」と、山中調査官。

 

「ハイ、あります。」とうとう、池田氏は郵便局の貯金の存在を認めたのであった。

 

「そのお父さん名義の貯金は、あなたやあなたのご家族の貯金ですか。」と、更に山中調査官の追求は続く。

 

「いいえ、郵便局の貯金は父の貯金です。私達のものではありません。」と、うつむいて顔を上げられない池田氏が答えた。

 

びっくりしたのは、多田税理士であった。

 

「池田さん、それはほんとうですか。お父さん名義の郵便局の貯金があったんですか。」

 

「ハイ、多田先生すみません。」

 

 池田氏は、そう言ったまま、うつむいていた頭を更に下げて、多田税理士に謝ったのである。

 

 一転、急に元気になったのは、山中調査官であった、。

「じゃあ、郵便局の貯金のことを、多田先生にも話してなかったんですね。」

 

「先生もご存知無かったんですか。」と、山中調査官は、多田税理士に話しかけた。

 

「知らないですよ。冗談じゃない。知ってたらキチンと申告書に書きますよ。」わざわざ、自分にまで郵便局の貯金の存在を確かめる税務署員に「ムッ」ときた多田税理士は、語気を荒げて話すのであった。

 

「わかりました。それじゃあ、郵便局の通帳を見せてくれませんか。それに、簡易保険の資料もお願いします。」山中調査官は、落ち着いたものである。

 

以前は、郵政省と大蔵省の垣根も高く、情報の交換があまり行なわれていなかったようであるし、一部の地域では、輸便局の貯金や簡易保険は絶対に税務署に分からないという、ウワサが根強く残っているらしい。

 

現在では、郵便局の貯金も簡易保険も、税務署に分からないということは、あり得ない。

 

 山中調査官は、池田氏が通帳類を取りに腰を上げた時に、「私も一緒に行きます。」と言って、席を立とうとした。

 

 と、その瞬間、多田税理士は、税務署員の同行を止めさせる「決め手の発言」をしたのであった。

 

 その「決め手発言」とは・・・

 

 次号をお楽しみに!


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