税務調査最前線

第3話 1章『家政婦は見た!』

 (そんなことまでしなくちゃいけないの?)

 

 多田税理士事務所の電話が鳴った。

女性事務員が電話をとって応対している。

 

「はい、多田税理士事務所の坂口です。」

「少々、お待ち下さい。」

 

「所長、松岡さんの紹介でお電話されたそうです。お名前は池田さんとおっしゃいますが、でられますか」

 

 多田税理士は、毎年確定申告で訪ねてくれる松岡氏の顔を思い出しながら、電話にでた。

 

「はい、税理士の多田です。」

 

「お忙しいのに、すみません。近所の松岡さんから、多田先生のことを聞きまして、ご連絡しております。実は、相続税の申告をお願いしたいのですが、ご都合はよろしいですか。」

 

 多田税理士は、得意の相続税の申告依頼が舞い込んできたので、少々嬉しい気分になって返事をした。

  


「ハイ、大丈夫ですよ。」と、弾んだ返事を返す多田税理士であった。

 

池田氏は、申し訳なさそうに話すのであった。

「実は、申告期限まで2週間しかないのですが、それでもよろしいでしょうか」

 

 多田税理士は、申告期限まで2週間と聞いて、困ってしまったが、兎に角、会って話を聞こうと思い、池田宅へ訪問することにした。

 

 池田氏の母は10年前に亡くなっており、父親を亡くしての相続であった。相続人は、長男である池田氏一人であり、遺産分割でモメルこともないようである。

 

 多田税理士は、池田氏の家を訪問し、書類を取りに行った主人が返ってくるのを応接室で待っていた。

 

 すると、市原悦子に良く似た家政婦が、お茶を持って入って来た。

 

「どうぞ」と言って、お茶を出す家政婦に、多田税理士はお礼を言った。

 

「奥さんですか。どうもありがとうございます。」

 

「いいえ、私はこの家の家政婦です。奥様が、病弱でいらっしゃるので、お手伝いさせて頂いております。」

と言い残し、家政婦は応接室を出て行った。

 

 池田家は、農業と不動産賃貸業を営んでおり、比較的裕福な生活ぶりであった。

 

「家政婦さんか。すごいな。」などと感心しながら主人が戻ってくるのを待っていた。

 

 

 

 

 

「いやー。先生お待たせしました。」主人は、書類箱を持って応接室に戻ってきた。

 

 多田税理士と主人は、相続税の申告資料について細かく打ち合わせを始めた。

 

多田税理士は、その後も何度か池田宅を訪問し、申告に間に合わせようとあせっていた。

 

「ご主人、もう他に財産はありませんね。例えば、あなた名義の預金があったとしても、あなたが贈与してもらってない預金であれば、相続財産に加えなければなりませんよ。」

 

主人は、「いいえ、そんなものはありません。これで全部です。」と答えた。

 

 この二人の様子を、応接室のドアの隙間から、のぞき見している人物がいた。

 

 そうです、あの家政婦です。

 

池田家に派遣された家政婦は、独身で50歳。他人のことが気になって仕方のない性格で、派遣先で知った情報を家政婦仲間に話すのが趣味になっていた。

 

この日も、チャンスをうかがっていたのである。いつもは、夫婦の会話をそ知らぬ振りで聞いているのだが、今は、普段馴染みのない税理士との話しなので、興味津々だったのだ。

 

「この家の相続税っていくらくらいなのかな」などと、仲間に話すが待ち遠しい家政婦であった。

 

 その後、この家政婦は、とんでもない事実を知ってしまうことになったのである。その事実とは・・

 

 

 


申告はなんとか済み、1年ほど経った頃、佐世保税務署から税務調査の連絡があった。多田税理士は、1年ぶりに池田宅を訪問することになった。

 

 出迎えてくれたのは、あの家政婦であった。

家政婦は、これから何が起こるのか、ワクワクしているのである。

 

 ニコニコ笑って多田税理士を応接室に案内し、スグ後に主人が入ってきた。

 

「先生、今日はどうもありがとうございます。心強いですよ。相続税の税務調査なんか初めてですからね。

やっぱり、所得税の調査とはちがうんですか。」

 

 気のせいか、主人は落ち着かない様子で、多田税理士に話しかけるのであった。

 

「ご主人、大丈夫ですよ。これから、税務署員がいろんな質問をすると思いますが、質問以外の余分な話しはしないで、沈黙に耐えて下さいネ。」

 

 多田税理士が、いつもの税務調査の対応方法を主人に説明しているうちに、税務署員がやって来た。

 

 応接室に2人の税務署員が入って来た。

いよいよ、税務調査の開始である。

 

「佐世保税務署、資産税部門の山中です。」

「同じく、高山です。」

 

「税理士の多田です。よろしくお願いします。こちらが、ご主人の池田さんです。」

 

「池田です。よろしく、お、お、お願いします。」

池田氏の声は、僅かではあったが、確かに震えていた。

 

 

 

 

 「相続税の申告について、いろいろとお尋ねしたいので、よろしくご協力の程お願いいたします。」山中調査官が、丁寧に挨拶をした。

 

 「礼儀正しい税務署員の方が、手ごわいこともあるから、今回は要注意だな。」と多田税理士は、気を引き締めていた。

 

 またもや、この応接室の様子をうかがっている人物がいた。そうです、あの家政婦です。

 

 家政婦は、ドキドキ、ワクワクしながら応接室の中の会話を、ドアの隙間から聞いていた。

 

 「亡くなったお父さんの、趣味は何かありましたか。」

山中調査官が質問した。

 

「いえ、特別何もなかったですね。植木いじりぐらいでしょかね。」主人が答えた。

 

 そして、この後の税務署員の質問に、ドッキンとする主人。同時に、家政婦もドッキンとしていた。

 

 なぜ、主人は緊張してしまったのか。

家政婦が知った事実とは、いったい何なのか。

 

 次号をお楽しみに!


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