税務調査最前線

第1話 4章『フルーツ店の悲劇』

前回3章のあらすじ

 (佐藤統括官の理由のない修正申告の要請に困り果てた多田税理士は、あることに気がついたのである。いったい何に気が付いたのだろうか。)

トイレに入った多田税理士は、携帯電話を取り出し、「ある人物」に電話をかけている。

 その「ある人物」とは、税理士の「沖山」という人物であった。沖山税理士は、業暦30年のベテラン税理士であるが、ただのベテランという訳ではなかった。

この沖山税理士は、25歳で税理士になり、税法の研究に日夜取り組み、納税者の立場に立った実務指導には定評があり、今では九州各県の税理士に実務指導を行い、税務署との戦い方を教えている人物である。

 多田税理士は、沖山税理士のことを思い出したのである。「困った時は、いつでも電話しなさい」との、沖山税理士の言葉を信じ、すがる思いで携帯電話のボタンを押したのであった。

 「はい、沖山です」携帯電話の向こうから渋い声が返ってきた。

 「沖山先生ですか。私は長崎の多田です。急にすみませんが、今税務調査の現場から電話しているんですが、今時間取れますか?」

 「ああ、あんたね。どんなことね。」

 「実は・・・・」今日のいきさつを、細かく沖山税理士に相談する多田であった。

 「随分ヒドイことをいう税務署員やね。」

 「わかった。そしたら、こう言いなさい」

 「まず、こちらの了解もなしにつり銭カゴを勝手に調べたことは違法ですよ。あなた方には、強制的に調査をする権限は与えられていないのだから、違法調査ということで、問題にします。また、税務署長の指示があったのかどうかも確かめますのでそのつもりで。と言いなさい」

「それから、あなたは丸暴担当などと言うが、税務署にそんな部署はないし、おどし文句を言うのであれば、公務員としてあってはならない言動なので「行政監察事務所」にその旨報告しますからそのつもりで」

 「また、預金があるだけで修正申告できる訳がないし、本当に売上もれだったら、そちらで更正して下さい。修正申告は、更正があるまでは(することができる)という規定なのだから、こちらは修正申告しません。とはっきり言いなさい」

 「そして、当方はこれ以上本日の調査を受けるつもりはありません。お帰りいただかなければ、丸暴発言と根拠のない修正申告の要請に関して、今から税務署長に電話をして、税務署長の指示かどうか確かめますよ。と言いなさい。」

 沖山税理士の話がひと通り終わった。

「沖山先生、よく分かりました。さっそくその様に税務署員に言ってみます。ありがとうございました。」

「ハイハイ」とだけ言って沖山税理士は、電話を切ったのである。

トイレから帰った多田税理士は、沖山税理士から電話で聞いた内容を、佐藤統括官にぶつけたのである。

 佐藤統括官は、さっきまでオロオロしていた多田税理士とはまったく違う毅然とした態度と発言に少々驚いている様子である。

 「いやあ、先生。今日は私も少し言い過ぎました。誤ります。すみませんでした。銀行の預金のこともじっくり調べて、出直してきます。」

「ご主人、今日は朝から驚かせたみたいでどうもすみませんね。後日、日を改めてお伺いさせてもらいますので、今日のところは、これで失礼します」

 と言い残し、佐藤統括官達は帰っていったのである。

驚いたのは、フルーツ店の店主であった。

「先生、すごいですね。あんだけ威張ってた税務署員が先生の一言で帰っちゃいましたね。いやあ、たいしたもんですね。助かりましたよ先生。」

 

こんなにスムーズに税務署員が帰るなんて思ってもみなかったので、当の多田税理士もびっくりである。

しかし、電話で対処方法を聞いたんですよ、とは言えず「言うべきことを、言うべきときにキチンと言えばいいんですよ。」

「今日の彼らの言動は明らかに行き過ぎです。これからも、言うべきことはキチンと言いましょう」と、平然と答える多田税理士であった。

 しばらくして、フルーツ店の奥さんも店に着き、現金出納帳とつり銭カゴの違いは、現金締め後の売上であることが判明し、売上伝票の数字とキッチリ合うことが分かったので、その旨を税務署に電話で伝え、この日の税務調査は終わったのである。

 また、その後の調査で、銀行預金はフルーツ店の店主言うとおりであったことが判明し、これで税務調査は終了したのであった。

 多田税理士は、沖山税理士という「税務署と戦う税理士」の教え子であったため、沖山の知恵を得て事なきを得たのだが、経験の少ない税理士や税務署の言うことが正しいと思い込んでいる税理士にとっては、今回のような税務調査ではどう対応しているのか気にかかるところでもある。

 今回のような、税務調査は稀な例であるが、あってはならない例である。

一般の税務調査では、税務署員に「質問検査権」が与えられているが、「質問とは、質問対象者に、事業に関係のある事項について、問いを発し答えを求めることであり、「検査」とは、相手の承諾を得て、帳簿書類その他の物件について、その存在及び性質、形状、現象その他の作用を五官の作用によって知覚実験し、認識を得ることなのである。

 

納税者は、税務調査を受ける義務はあるのだが、何でも税務署の都合に合わせねばならないという訳ではないのである。あくまで、一般常識の範囲内の言動と行動が前提である。

従って、都合が悪ければ、調査の日程を変更することは可能であるし、個人的プライバシーを守ることも可能なのである。

 今回の税務署員のように、国家権力を傘にきて、強引な発言や間違った発言をすることは、往々にしてあり得ること。役人根性を逆手にとることも時には必要。

彼らは、間違った修正申告の指導をしたとしても、何のペナルティーも損害も受けないのである。従って、つい、言いたい放題、言いぱなしになってしまうので、こちらが最大限注意しなければならない。

次回「税務調査最前線」予告

次回第2話は、「売上洩れなのに、税金がもどる?」というタイトルで連載します。

さん、「そんなことがあるもんか。いい加減なことは言うな。」と思ってはいませんか。しかし。今まで常識だと思ってきたことでも、思わぬ勘違いだったということもあるものです。

「アンビリーバボー」の世界にあなたをお誘いします。ウソか本当か次回のお楽しみ。(事実は小説よりも奇なり)

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