税務調査最前線

第1話 3章『フルーツ店の悲劇』

前回2章のあらすじ

 (佐藤統括官に一方的に攻められるフルーツ店店主と税理士。隣町の銀行預金1億円は、売上を隠して貯めたと指摘された。さてその真相は・・)


「俺にそんないいかげんなこと言ったって、通用しないんだよ。俺は北九州じゃ丸暴担当だったんだぞ」

「売上をゴマカシているのは分かっているんだよ。あんたのとこは7年間で5,000万円の売上もれだ。


 俺をナメンジャねえーぞ」

 佐藤統括官はものスゴイ形相で二人を睨みつけて言ったのである。

 あまりの大声と、強行で一方的な佐藤統括官の姿勢にすっかり脅えてしまった二人は、何も言えずに突っ立ったままであった。

 「丸暴」とは、警察用語で「暴力団担当」のこと。おそらく佐藤統括官は相手を威嚇する目的で、つまり、脅し文句としてよく「丸暴担当」を名乗っているのであろう。

 もちろん、税務署に丸暴担当などはなく、むしろその世界の方には、まともに調査をすることはできないであろうと言われている。

 一方的に攻められる二人であったが、最初に口を開いたのは店主であった。

 「あのう。あの1億円は20年前に息子が交通事故で死亡したときの生命保険が5,000万円ぐらい入ってきて、それをずっと定期預金にしてたんです。」

「継続継続できたんで、利息が増えただけなんですよ。」「大事な息子が残してくれたものですから、手をつけないで大事に持ってたものなんです。」

 再度、預金の説明をする店主であった。

 多田税理士は、じっと店主の顔をみつめている。正直言葉が出ないのである。極度の緊張で、肩はガチガチになり、心臓は高鳴り、口が乾いてしょうがない状態であった。多田税理士にとってこんな税務調査は初めてだし、どう対処したらようのかまったく検討もつかないというのが本心であった。ただ、早く調査が終わってくれることを願っているのであった。

 店主の説明に納得しない佐藤統括官は、「5,000万円の売上洩れで修正申告」をするように強い口調で税理士に言ったのである。

 「先生、税務署は忙しくてわざわざ銀行に調べには行けないんですよ。」「ここらで調査をおわらせましょうや。先生からも納税者に言って下さいよ。」

 言葉は丁寧だが、大声と厳しい口調は変わらない佐藤統括官であった。

 多田税理士は考えた。現金の食い違いの原因も聞こうとしないし、帳簿の調査もしないで「預金があるから」というだけで、修正申告しなければならないことに納得できない気持ちで一杯であった。

 返事もせずに考え込んでしまう多田税理士。

 店主も疲れてしまったのか、そっと多田税理士に耳打ちするのであった。

「先生、もういいですよ。何を言っても分かってもらえないですから。預金の全額は無理だけど、  

1,000万円ぐらいだったらお土産を持って帰ってもらいましょうよ。」

 と、その時。

多田税理士は「ハッ」と気が付いたことがあった。

「うん、そうだ。そうしよう」と思い立った多田税理士は、急に「トイレに行ってきます」と言い残し、その場からトイレに向かったのである。

 多田税理士は、いったい何に気付いたのだろうか。そして、何故トイレに行ったのだろうか。

  その真相は・・・

つづく・・(次号の第1話完結編をお楽しみに)

 

 ★今回の税務調査の対処ポイント

 

@     佐藤統括官(仮名)の言った「丸暴担当だったんだぞ」という発言は実際にあった話です。

 佐藤統括官の強硬な発言は前号までに書いたとおり違法であり、許されることではない。

税務署がこんな調査手法を調査官に指導している訳ではない。このケースは非常に珍しいケースだが、「丸暴」発言は事実。

 税務署員も役人。このケースの場合、調査を一旦中止し、佐藤統括官の発言を税務署長に伝え、それが税務署の方針かどうかなど、問い質す姿勢が大事。

Aお土産とは、税務署が来た時に、納税者の方から積極的に納税洩れを認めて、税務署に早く帰ってもらうためのもの

 一部には、修正申告するまで税務署は帰らないと言われたりもするが、そんなことはない。税務調査で課税洩れがないこともよくあること。


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