タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

11話『貸ビル屋の弱み』

 (私もなんです!) 9

 

(多田税理士が居酒屋で知り合った若い女性は、不倫関係があったことを匂わせる。仕方なく、彼女の夫の貸ビル会社の税務調査の立会いを引き受けた。そして、税務調査は終わろうとしていた。)

 

「とと兎に角、離れましょう。ねね。」と、多田税理士は千夏の接近を拒むのだった。

「あ〜あ、残念。こないだみたいに仲良くなりたいだけなんだけどなあ。でもまあ、旦那も一つ屋根の下にいるわけだしねえ。税務調査も終わったし、今日のところは大人しくしましょうかねえ。ふふふ。」

「そうですよ。多分税務調査も終わったと思いますから、もうこちらにお邪魔することもなくなったと思いますよ。ですからこの辺で失礼しようかと思います。」と、千夏とのかかわりを避けたい多田税理士。

「ねえ、多田先生。これから株式会社アキヤマの顧問税理士になってくださらないかしら。旦那は私の言うことなんでも聞く奴なんで、反対なんかしないと思うんだ〜。そしたらさあ、毎月ここで多田先生と会えるし、千夏嬉しいんだけどなあ〜。」

「あっいや。顧問ですか。今忙しくて大変なんですよ。この税務調査にお付き合いするのもやっとやっとだったんですよ。今は、新規の顧問先は引き受けられない状態なんですよ。」と、秋山家から早く遠ざかりたい多田税理士。

「あらあ。そんなに簡単に断らなくてもいいんじゃないかしら。私の気持ちが変わると大変なことになるかもしれないわよ〜。携帯の多田さんとの写真、旦那に見せちゃおうっかなあ〜。アハハ。」

 

「いやいやそんな。わざわざ波風を立てなくてもいいじゃないですか。あの日の夜のことは居酒屋までしか覚えていないんですよ。ですから、その大人の関係などはないと思うんですよねえ。」と、記憶に自信のない多田税理士。

「あらあ、多田さんに記憶がなくても私にはバッチリあるんですう。大人の関係なんですう。ふふふ。」

「いや〜そう言われましても・・・。まあ、一応今日のところは税務署員も帰ったことですし、これで失礼しようと思います。最終的な連絡がありましたら、お電話しますので。」と、帰り支度を始めた多田税理士。

「まっ、今日のところはあきらめました〜。会いたくなったら携帯にかけるからよろしくね。」と、微笑む千夏であった。

 

 秋山家での税務調査の二日後、坂税務署の蒲原上席調査官から調査終了の電話連絡が多田税理士の下に届いていたのだった。さっそく秋山家に税務調査終了の連絡をして、早く秋山家から遠ざかりたい多田税理士の携帯に秋山千夏から電話がかかったのだった。

 

「もしもし。わたし。千夏。多田さんに、またお願い事ができちゃったの。」

「あっ、千夏さんですか。またお願い事ってなんですか。ああ、そうそう。こないだの株式会社アキヤマの税務調査は無事終了しましたよ。先ほど、坂税務署から連絡がありましたから。よかったですねえ、何にもなくて。これで、私の役目も終りかと思います。ご主人によろしくお伝えください。」

「あのね。こっちにもね、坂税務署から電話があってね。税務調査に来たいのだけれどいつがいいのか旦那の都合を聞いてくれってさあ。」

「ええ。なんでまた税務調査なんですか。終わったばっかりじゃないですか。本当に坂税務署からの電話なんですか。」

 

「本当に坂税務署の資産課税部門の山形さんからの電話だったのよ。相続税がどうのって言ってたわ。」

「え〜、相続税の調査ですか。そう言えば、おとうさんは1年半前に亡くなったってご主人が話されてましたよねえ。それにしても、法人税の調査が終わってすぐに相続税の調査とはねえ。まあ、総合調査とかいって所得税と相続税と消費税と一緒に調査があることもありますからねえ。」

「ねえ、多田さんしかお願いできる税理士さんいないしさあ。主人の相談にのってやってもらえないかなあ。もう顧問税理士になってくれなんて言わないからさあ。ね、もう一回だけお付き合いしてくれないかなあ。」と、甘えた口調の千夏。

「お付き合いと言われるとなにかこう誤解が起きそうな感じがしますが、税務調査ならお引き受けしない訳いかないでしょうねえ。」と、相続税の税務調査を断る理由を見つけられない多田税理士であった。

「あらあ。あっさり引き受けてくれたのねえ。ありがとう。また、多田さんに会えるなんて嬉しいわ。面倒でしょうけれど、今度税務調査の打ち合わせにこちらまで来てもらえませんか。」

「わ分かりました。では、あさっての朝10時にそちらにお伺いしましょうか。」

「たぶん大丈夫でしょう。旦那はそんなに忙しい人じゃないから。なにか用意しておくものってあるの。あったら教えて。」

「相続税の申告書の控えがあると思いますから、ご主人に用意してもらっててください。それにしても、奥さんがご主人の税務調査の依頼で私の携帯電話に直接かけてこられるのもちょっと変ですよねえ。ご主人とはもう面識がある訳ですし。二人が普段から電話をかけ合っているんじゃないかって思われませんかねえ。」と、秋山隆が千夏と自分との関係を疑わないか心配の多田税理士であった。

「うふふ。疑っているかもね〜。」

 

「え〜そうなんですか。うわあ、困りましたねえ。」と、ひるむ多田税理士。

「あはは。冗談よ〜。主人から電話かけてくれって頼まれたのよお。私たちのこと全然気にしてないみたいよ。本当はヒミツがるのにねえ〜。ふふふ。」

「じょ冗談は止めてくださいよ。それに、今回で2回も税務調査に立ち会うことになった訳ですから、もう今回の税務調査を最後にしてくれませんか。奥さんも人妻ですし、他の男の方と何かあると、やはり問題じゃないですか。家庭内で揉め事を作るのはよろしくないじゃあないですか。ねえ。」

「あらあ、心配してくれるのね、多田先生。でもは、我が家は大丈夫なの。少なくとも、私が原因で離婚なんかにはなりゃあしないのよ。なんでも言うこと聞くのよ。内の旦那はね。」

「そそうなんですか。よっぽどご主人は千夏さんにゾッコンなんですね。いいご主人じゃないですか。兎に角今回の税務調査でカンベンしてくださいよ。私は不倫関係は望みませんし、損害賠償訴訟の被告人にもなりたくありませんから。」

「うふふ。そうねえ。多田さんのことはあきらめちゃおうっかなあ。でもねえ・・・。好みなのよねえ。」

 

二日後の午前10時。多田税理士は秋山家の事務所のソファーに座っていた。向いには秋山隆と千夏が座った。机の上には、相続税の申告書の控えがあった。

 

「いや〜多田先生。おいで頂きありがとうございます。しかし、参りましたね、連続して税務調査だなんて。狙われているんでしょうかねえ。」と、隆。

「そうですね。珍しいことではありますね。でも、所得税・消費税・相続税の税務調査が同時に行われることもありますからねえ。総合調査というそうですけど、まあ、我々納税者は税務調査を受ける義務はありますから、仕方ないですよねえ。」

 

「あら多田先生。今回の相続税の調査でも、私も税務調査を受ける義務があるんですか。」と、千夏が珍しく質問してきた。

「いえいえ。相続税の場合は、相続税や贈与税の納税義務のある者や納税義務のあると認められる者ということになりますから、相続人でもない奥さんは、亡くなったお父さんから財産をもらってなければ質問対象者には該当しませんよ。」

「ふ〜ん。でも前回のようにここに居てもいいんでしょう。なんか、こうスリルがあって面白そうなんだもん。ふふふ。」

「まあ奥さんですから、一緒にお話を聞いても構いませんし、税務署の方からすれば、亡くなったお父さんに関する質問があるでしょうから、同居の方の証言を得られる方が仕事は進むでしょうから、奥さんも同席される方を望むでしょうねえ。問題はありません。また、いつ抜けられても構いませんので。」

「先生、これが父の相続税の申告書の控えです。」と、机上を指差す隆。

「じゃあちょっと拝見します。相続人は、隆さんお一人ですね。亡くなってから1年半で調査ですか。比較的早い時期に調査が来るんですねえ。普通預金と定期預金に株式会社アキヤマの株式ですか。土地・建物もありますねっと。ふむふむ。はは〜んこれがありますか。そうかそれで調査に来るんですか。」

「えっ。多田先生なんかありましたか。なんか税務調査に来る原因があったんですか。」

「ええ、それらしきものがあるんですね。これを持ってる方の申告内容は結構漏れが多いそうなんです。」


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