タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

11話『貸ビル屋の弱み』

 (私もなんです!) 15

 

(多田税理士が居酒屋で知り合った若い女性は、不倫関係があったことを匂わせる。仕方なく、彼女の夫の貸ビル会社の税務調査の立会いを引き受けた。そして、法人税の税務調査は終了したが、今度は相続税の税務調査が始まった。みなし贈与の対象になるとの調査官の指摘に沖山税理士の力を借りて反論する多田税理士であった。)

 

「どうですか、秋山さん。私の主張の中身は分かられたでしょうか。もちろん、細かいところはもっともっと説明が必要だと思いますが、『通達』に贈与とみなすと規定されているから、それをさも法律の規定のように納税者が従わなければならないことには、ならないと主張しているんですよ。」と、多田税理士。

「なるほど。なんとなくですが、理解できるような気がしてきました。つまり、『通達』は、税務署内部の命令規定のようなもので、納税者が従わなければならない法律ではないということなんですね。」と、隆。

「そうです。そうなんです。そして、今回のような会社に借地権が無償移転した場合には、そこだけみると確かに地主である父親から会社に借地権が移動して、その分他の株主の株価も増加はします。無償で財産をもらったんだから、その会社の財産が増えるということは、その会社の株主の株式の評価額は上がります。しかしですね、借地権の設定という通常の経済行為が行われた場合に、みなし贈与の『通達』を適用して納税者が相続税の修正申告をせねばならい法律的な理由はないんですよ。『通達』は納税者が従うように強制される法律じゃありませんから。」

 

「なるほど。それで、今回の私の会社の場合、通常の経済行為である借地権の設定ですか、その借地権の無償での会社への移転なんかにみなし贈与の『通達』が使われることはおかしいと多田先生はおっしゃるんですね。」と、隆。

「そうです。明らかに租税回避をねらった行為に対してだけ適用されるみなし贈与の『通達』だと考えるんですね。だって、新たに借地権が会社に無償で移転しても、九州の坂県なんか権利金をもらう慣行がありませんから、会社が借地権の受贈益課税を受けることはないんですよ。実務的にそう取り扱われているんですね。もちろん、会社自らが借地権の受贈益を雑収入なんかに計上してもいいんですよ。会社自らが、権利金をもらう慣行があるんだと判断すればね。借地権の受贈益課税は法律に規定してありますからね。」

「なるほど、会社に無償で移転した借地権の課税もされないのに、『通達』で株主間の贈与だけを認定することはおかしいんじゃないか、と多田先生はおっしゃる訳ですね。」と、厳しい表情の隆。

「そうなんです。借地権の設定という通常の経済行為について、『通達』による株主間のみなし贈与があったとして、贈与税の更正処分が行われたなんて聞いたこともありませんしね。仮に更正処分されても、異議申し立てしましょうよ。株式の評価だって、何も相続税の計算のために利用する財産評価基本通達だけじゃないんですよ。将来のキャッシュフローを計算する株式評価もあるんですよ。」と、多田税理士は隆を説得するのであった。

「分かりました多田先生。ここは、先生のご経験を買いましょう。正直、少々不安はありますが、今回はそのみなし贈与での相続税の修正申告はしないことにしましょう。」と、すっきりした表情の隆。

「そういう訳でして、納税者の考えも固まりましたので、今回は株主間のみなし贈与については、何もしないということにしましたので。はい。」

 

「わっ、分かりました。議論としては平行線をたどることになりそうですね。では、今日のところは今までの多田先生のご主張を持ち帰ることにします。これからのことは上司と相談することにします。では、失礼します。」と、山形上席調査官は帰って行った。

「あら〜。多田先生、トイレ前とはまるで別人のように雄弁になられるんですね。スッゴーイ。」と、多田税理士の顔を覗き込む千夏。

「これこれ、あまりふざけちゃいけないよ。あっ、多田先生にご迷惑だからね。ねっ。」

「きちんとこちらの主張を持ち帰ってくれればいいんですけどね。正直打ち明けますけど、ベテランの税理士でも、会社への借地権の移転時に株主間のみなし贈与を指摘されたことはないそうなんですよ。でも、これまで説明しました通り、明らかな課税を逃れることのみを目的とした行為だったら、贈与とみなされてしまうかも知れませんが、通常の経済行為で純資産価額方式の株式評価額が増加するとしても、そのことだけを捉えてみなし贈与があったから即贈与税を課税するなんて無茶ですよ。」

「まあ、多田先生を信じてここまできましたから、先生のお考えのとおりさせて頂きます。ありがとうございました。」と、頭を下げる隆。

「いえいえ当方の主張を取り入れて頂いて恐縮です。今後も、何かあったらキッチリと対応しますので、ご安心ください。」

「いや〜。ホットしたら私もトイレに行きたくなりました。私は超トイレ長居人間ですので、ここで失礼します。」と、隆は事務所を出て行った。

 事務所には、多田税理士と千夏の二人きりとなった。

「やぱり多田先生ってステキ。うちの旦那の税務調査2件とも解決しちゃったんですものね。旦那なんか困っちゃえば良いって思ってたけど、困り果てた旦那の顔を見るとかわいそうになっちゃった。やっぱり、少しは未練があるのかしらねえ。」

 

「そっそうですよ。いい旦那さんじゃないですか。なんでも言うこと聞いてくれるんでしょう。」

「うん。千夏の言うことだったななんでも言うこと聞いてくれるんだ〜。だって、あたし旦那の大事な秘密に付き合ってあげてうからね。」と、意味ありげにニコリとする千夏。

「はあ。まあ、ご夫婦ですから、そのどんなお付き合いでもよろしいんじゃないでしょうか。それより、税務調査も一応終わりましたし、携帯電話の写真とかその、処分して頂いてですねえ、不倫などということはないようなことにしてもらえないでしょうか。ねえ、千夏さん。」と、懇願する多田税理士であった。

「ねえ、うちの旦那さあ。女装が趣味なのよ。それでね、色白だから化粧すると結構な美人さんになっちゃうのよ。いえね、旦那は男が好きなんじゃなくて、純粋に自分の女装姿に満足しているのよ。それでね、私に写真を撮ってくれって言うのよ。」

「はあ。じょ女装ですか。まあ、旦那さんは小柄で色白だから似合うのかも知れませんね。そうですか、女装が趣味なんて世間にバレたら大変ですよね。それで、なんでも千夏さんの言うことを聞くんですね。洋服なんかも沢山買ってもらえるんですねえ。そういう意味じゃあ良い旦那さんじゃあないですか。」

「それがね、うちの旦那小柄でしょう。私と洋服のサイズがいっしょなのよ。それで、私が買ってきた洋服を自分も着れるから、自分だって楽しいのよ。それでね、わたしとキスしてる写真を撮ってくれってことになってさあ、そんな写真を眺めるのが彼の趣味になっちゃったてことなのよ。なんだか、かわいそうな気もしてね。うちの旦那が男の人を好きになっちゃったら別れるしかないけど、男としての部分も残っているし、まあ、人と変わった人生も良いかなって感じ。あら、旦那の趣味しゃべっちゃった。女装趣味の話は忘れて頂戴ね。」と、ウィンクする千夏。

「わっ分かっていますよ。それで、私のことも・・」

 

「分かりました。携帯電話の写真は消します。不倫だなんてもう言いません。でも、さっきのみなし贈与で課税されたら、また、多田先生に来てもらうから、1枚位写真残しとこうかなって。ウフフ。」

「そそんなあ。人の弱みをもてあそばないで下さいよ。千夏さん。」

「了解。税務調査に来てくれてありがとう。もう携帯電話の写真は消しますね。」と、千夏は携帯電話を取り出しで多田税理士の写真を削除したのだった。

「ねっ、これで多田先生の写真残っていないの分かるでしょう。」と、自身の携帯電話の写真すべてを多田税理士に見せる千夏。

ホットした多田税理士は、千夏に尋ねた。

「ち千夏さん、本当は何もなかったんですよねえ、。あの日の夜ですけど・・。」

「うん、残念ながら何にもなかった。だって、お部屋に入ったらすぐ寝ちゃうんだもの。それで、千夏がお洋服を脱がせて、多田先生とのキスシーンを撮ったのよ。だって、いい感じだなあって思ってたんだよ。大人の関係になれればいいって思ってたのになあ。」

「でっでもホントにキスしている写真でしたよねえ。」

「うん、旦那とわたしのキスシーン撮るの慣れてるから、手を伸ばしてこの方向に携帯向けるとバシッとね。」

「はあ〜、やっぱり大人の関係はなかったんですね。はあ〜、訴えられなくてよかった〜。」

 その後、やはり坂税務署からのみなし贈与での更正処分の通知は来なかった。そして、不倫訴訟に怯えた多田税理士は、しばらくの間居酒屋通いは控えたのであった。


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