タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

11話『貸ビル屋の弱み』

 (私もなんです!) 14

 

(多田税理士が居酒屋で知り合った若い女性は、不倫関係があったことを匂わせる。仕方なく、彼女の夫の貸ビル会社の税務調査の立会いを引き受けた。そして、法人税の税務調査は終了したが、今度は相続税の税務調査が始まった。みなし贈与の対象になるとの調査官の指摘に対応できず、沖山税理士に助けを求める多田税理士であった。)

 

「なるほど〜。『通達』に書いてあるような、みなし贈与があったとしても、それは、課税庁が贈与があったとみなしなさいと税務署員に支持していることであって、『通達』のみなし贈与に該当するからといって、そのことが即納税者の申告義務に該当する訳ではないんですね。通常の経済行為で自社株の株価は常に変動している訳だし、借地権の設定という経済行為があった時だけ自社株の上昇を計算して贈与額を算出するなどということは現実的ではないということなんですね。『通達』のみなし贈与規定は、何か、こう課税逃れのみを意図しているみなし贈与の場合にだけ適用されるべきだということなんですね。」と、多田税理士。

「そうなんよ。あの『通達』のみなし贈与規定についてはね。更にだけどね、自社株の評価だって、少数株主については安い額面金額で評価していいという配当還元方式で手間を省いているでしょう。今回は、相続税の申告があったから、自社株の評価計算をしているから移動した借地権を計算して、相続税の自社株評価に加えることが可能そうに見えるけど、みなし贈与は相続以前に発生しているし、みなし贈与があった2年前の時点の自社株の評価なんか誰もしとらんじゃろ。」

 

「あっ、そうですよね。会社の建物の敷地については、2年前でも評価計算できるので、息子の持分に移動したであろう借地権の価額の計算はできるけれども、じゃあ借地権の設定時点での株価はいくらからいくらに増加したのか誰も計算なんかしてませんよねえ。」と、沖山税理士の話す内容を理解する多田税理士。

「そう、借地権が設定された2年前の借地権の価額は簡単に計算できるけど、相続が発生もしていない期末時点での自社株の評価なんてしていないのが通常だし、必ず借地権の価額だけ上昇するとは限らんじゃろう。欠損金が無償取得した借地権の価額以上の会社の場合にはね、たとえ借地権の無償取得があったからと言っても、自社株の評価は、株価0円から株価0円になるじゃろう。そうすると、株式の価額が増加したとは言えないじゃろう。だから、みなし贈与があった時点での株価の計算が必要なんじゃ。そんな、みなし贈与があったかも知れないからといって毎期自社株の評価なんか事実上、経済上できないでしょう。そう思わんね多田さん。」

「おっ思います。思います。やはり、『通達』のみなし贈与の規定は、通常の経済行為について適用するものではなく、租税回避のみを意図した場合にのみ、課税庁サイドが課税処分するためのもので、納税者が自主申告するためのものじゃないということですね。」

「うん、まあそういうことじゃよ。ところで、その会社所有のビルは自社の事務所で使っているのかな、それとも貸ビルなのかな。」

「当然、貸ビルになっています。」

「じゃあ、貸家建付借地権やね。」

「はっ、カシヤタテツケシャクチケンですか・・」

「そうじゃよ。テナントさんにはね、借地借家法で借家人としての権利が保護されているからね、その分借地権価額が安く評価されるんじゃ。その借家権割合は30%とされているんじゃよ。あれっ、多田さん知らんかったとね。ワハハハハ。」

 

「あっ、はい。もう忘れてしまっていました。貸ビル

ですもんね。そりゃあ、借家人さんの権利だけ借地権の価額も安くなりますよねえ。はあ。」

「まあ、借地権があってこその貸家建付借地権じゃから、議論としては借地権という言葉を中心にしてもいいんじゃろうねえ。先月の授業でやったところだったんよ。最近休みが多いようじゃねえ。多田さん。ワハハハハ。」

「はっ、そうなんですか。最近、仕事中心になりすぎていました。反省です。まじめに、研修会の方も参加させていただきます。どうもありがとうございました。これで、なんとか調査官に反論できそうです。」

「研修会は無理せんでもいいんじゃがね。ちなみにね、借地借家法ではね、借地人もそうじゃけど、借家人に不利な契約は無効とする強行規定が定められているんよ。それに、借家人さんが同じ場所で継続して営業する権利もあるじゃろう。だから、借家人の権利の分だけ、土地や借地権の評価が減額されるんよ。」

「なるほどですねえ。参考になるお話ありがとうございました。」

 

 沖山税理士から、反論の材料をもらった多田税理士はやや落ち着きを取り戻したようだった。しかし、贈与だとみなされてしまったらどう対処していいのか不安な気持ちは残っていた。

 

「すみません。中座しまして。」

「あら、多田さん。顔色が良くなったんじゃない。何かトイレでいいことがあったのかな。」と、おどけてみせる千夏。

「はい、少々使える話を仕入れてきました。これから、お話したいと思います。」

「えっ、ウッソー。さっきまでだんまりだったのに。仮面ライダーみたいに変身しちゃったのかなあ。カッコいい。多田さんはそうでなくっちゃ〜。」

 

「結論から申しますと、3年以内の贈与があったとして、相続税の修正申告は必要ないと考えます。もちろん、これから秋山さんにも説明して、納税者の方に決定してもらうことですが。」

「多田先生、どのような理由で相続税の修正申告が必要でないとお考えなのでしょうか。私は、相続税法基本通達9-2の典型的な事例だと思いますが。」と、自身たっぷりの山形上席調査官。

「んん。確かに、借地している株式会社アキヤマへの借地権の無償の移転は、地主で会社の株主である父親から、同じ会社の株主である息子への贈与とみなされるととれる『通達』でのみなし贈与の規定ではあります。しかしですね。『通達』とは、国税庁内部の指針であって納税者が強制されるものではありません。もちろん、日常的には我々も、課税庁と問題を起こしたくないので、納得できる部分については『通達』の解釈を利用します。しかしですね、今回の場合、会社への借地権の無償移転によって、会社の株主である息子の株式の価額が増加したことにはなるでしょう。そして、財産を無償提供した地主で同じ会社の株主の父親から息子への贈与とみなされるかも知れません。しかし、この『通達』のみなし贈与規定は、借地権の設定という通常の経済行為には適用されるべきではなく、租税回避のみを意図する場合にのみ適用されるべき規定だと考えます。他の方も修正申告に応じているとおっしゃいましたが、当方は、到底納得できるものではありません。」

「ほう、そう主張されますか。我々としましては、『通達』の通りに運用しないといけないのです。ですから、修正申告をお勧めしている訳です。」

「そうなんです、税務署の職員は、『通達』に従わねばならないでしょうが、納税者には関係がない話なのです。つまり、『通達』に贈与だとみなすと規定してあるから、それがさも法律のように納税者を強制するものではないと言いたいのです。」

 

「多田先生、相続税の修正申告をしないと贈与があったとみなされちゃうんじゃないでしょうか。」と、心配顔の秋山隆。

「もちろんそういうことも可能性がゼロじゃないですが、私はみなし贈与だと認定されることはないと思っています。つまり、『通達』には、贈与とみなす規定はあります。しかし、僅かなみなし贈与があったからといって毎期自社株の評価をせねばならないなんて、事実上、経済上不可能でしょう。いったいいくらからのみなし贈与だと申告しなけばならないんでしょうか。贈与税は自主申告ですから、財産が増えたり、債務が減ったりする都度自社株を評価して申告しろとは不可能な話です。それに、借地権の設定という経済行為は日常茶飯事に行われているじゃないですか。通常の経済行為を行って贈与とみなすことは理不尽だし不可能だと思いますと。贈与とみなす明確な法的根拠は見当たらないと思いますよ。あくまで、課税庁が、課税逃れのがれのみのための無償による財産の移転に対して贈与とみなす『通達』だと解釈します。また、借地権の価額だけ株式の価額が増加すると決め付けてはいけないと思いますよ。2年前の借地権の移転の時の株価はいくらからいくらに増加したんですか。そんな計算誰がしているんですか。会社へ借地権の移転があったからと言って何処に贈与税の申告をしている人がいますか。聞いたこともありませんよ。通常の経済行為をして、それがたまたま『通達』のみなし贈与の規定に該当するからといって、それを理由に納税者が当然に申告する義務はないと考えます。明らかな租税回避を防止する『通達』と解釈すべきと主張します。」


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