タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

11話『貸ビル屋の弱み』

 (私もなんです!) 12

 

(多田税理士が居酒屋で知り合った若い女性は、不倫関係があったことを匂わせる。仕方なく、彼女の夫の貸ビル会社の税務調査の立会いを引き受けた。そして、法人税の税務調査は終了したが、今度は相続税の税務調査が始まった。自社株について調査官の関心があるようだ。)

 

「アキヤマbQは、約2年前に完成してますから、建設に着手したのはその2ヶ月くらい前じゃないでしょうか。父は建物が完成してから半年ほどで亡くなりましたから。」と、山形上席調査官の質問に答える隆。

 多田税理士は、調査官の質問の意味を考えるのだが何も浮かぶものはなかった。むしろ、法人の自社株の評価について、税法固有の考え方の借地権を評価に加えた申告をしていた相続税の申告をした以前の税理士の知識の深さに感心さえしていたのだった。

「そうですよね。少なくともお父さんが存命の時に建物の建設着手も完成までも完了されていますね。つまり、借地権はお父さんが亡くなる半年前には発生していたことになりますよねえ。そして、それは相続発生の3年以内であることは間違いないですよね。」と、ゆっくりと話す山形上席調査官。

 

 千夏は、税務調査の内容はまったく分からない。ただ、夫の隆が苦しそうに考え込んだり、税務署員の一言一言に過敏に反応する姿を楽しんで眺めているのであった。また、多田税理士の真剣な表情を見ては、亡くなった自分の父親をダブらせて眺めることも、千夏にとっては楽しい時間なのであった。

 

「多田先生がご存知なのは百も承知なのですが、相続発生の過去3年以内の被相続人から相続人への贈与は、相続財産に加えて申告することになっていますよねえ。もちろん、贈与税を払っていればその分は、相続税の前払いと捉えて、相続税から差引しますので、2重課税になる訳ではないんですよ。あくまで、3年以内の贈与は、相続税の課税に取り戻されることになっているんです。秋山さん、ここまではよろしいですよねえ。」

 チラリと多田税理士に振り向くと、そこには大きく頷く姿が見て取れたので、秋山隆も大きく頷いてみせたのであった。

「はい、そうしますと、2年前に完成した株式会社アキヤマ所有の建物アキヤマbQの借地権は、相続開始より半年以前に、つまり、相続税の課税に取り戻される3年以内にお父さんから株式会社アキヤマに無償で移転したことになりますよねえ。」と、多田税理士に向かって話す山形上席調査官。

 多田税理士は、「何を当たり前のことを言っているのだろうか」と、不思議な感覚を味わっていた。

「はい、分かります。借地権の認定課税のことではないんですよね。」と、多田税理士。

「はい、認定課税のことではありません。多田先生、この借地権の移動は、自社株の評価を増加させることは間違いないですよね。帳簿上、何も借地権は記載されませんが、株式の評価方法の純資産価額方式の計算では、借地権の評価額分の純資産は増加しますよね。つまり、株価が上昇することになりますよねえ。」

「そうですよ。まったくその通りですよ。そして、つけ加えるなら、借地権は帳簿価額0円で相続税評価額までの金額そのものが評価差額、つまり、含み益となっているので、含み益が実現したときに法人では法人税等が課税されるので、相続税の純資産価額の評価においても、含み益相当額の評価差額の45%(平成24年現在)は差し引いて評価することになっているんですよね。確か。」と、多田税理士。

 

「おっしゃる通り、さすが多田先生よくご存知でいらっしゃる。では、今回のアキヤマbQの借地権の移動については、お父さんから隆さんへのみなし贈与に該当すると考えますが、よろしいですよね。」と、山形上席調査官は自信たっぷりの表情だ。

「えっえっ。おっしゃっている意味がよく分からないんですが。みっみなし贈与・・・ですか。」と、皆目検討がつかない多田税理士。

「はい、みなし贈与です。つまり、地主であるお父さんは、息子さんと共同の株主である株式会社アキヤマ所有の建物の建設を承諾したんですよね。それで、無事建物が完成し、借地権も地主であるお父さんの財産から、株式会社アキヤマの簿外財産に無償で移転したことになりますよね。そして、会社への借地権の無償移転で、株式会社アキヤマの純資産価額方式の株価は上昇しますよね。すると、共同株主である隆さんの株価も上昇することになりますよね。無償で財産が増えた訳ですから当然ですよね。すると、相続税法第9条のみなし贈与になるではないですか。また、相続税法基本通達9-2には株式の価額が増加した場合もみなし贈与として取り扱うと記載してあります。そして、3年以内の贈与であれば、当然に隆さん所有の株式会社アキヤマの株価上昇によるみなし贈与に該当しますので、今回のお父さんの相続財産に加えて申告していただかなければならない訳ですよ。」と、山形上席調査官は税務調査の真意を伝えたのだった。

「・・・」無言の多田税理士。「・・・」無言の隆、と千夏。

「じじゃあ、相続税法第9条のみなし贈与の説明をしますとね、対価を払わないで、利益を受けた場合においては、その利益を受けた時において、その利益を受けた者が、その利益を受けた時におけるその利益の価額に相当する金額を、その利益を受けさせた者から贈与により取得したとみなす。と書いてあるんですね。秋山さんここまではよろしいですよね。」

 

「えっええ。そういう条文があるのならそうなんでしょうけど・・。た多田先生は、どうお考えなんですか。」と、隆。

 目を瞑り、腕組みして考え込む多田税理士は、無言のままであった。

「秋山さん。そして、ですね、相続税法基本通達9-2には、株式の価額が増加した場合のみなし贈与の適用例が書いてあるんですね。つまりですね、同族会社の株式の価額が、例えば、次に掲げる場合に該当して増加したときにおいては、その株主がその株式の価額のうち増加した部分に相当する金額を、それぞれ次に掲げる者から贈与によって取得したものとして取り扱うものとする。と書いてありましてね、その事例(1)には、会社に無償で財産の提供があった場合、その財産を提供した者、とあるんです。つまり、会社に財産の無償提供があって、そのことで会社の株価が上がったら、会社に財産を提供した方から、株主への贈与として取扱ますよ、って書いてあるんです。ね、みなし贈与そのものでしょう。」と、ニッコリ笑う山形上席調査官であった。

「多田先生、どうしてだまっているの。ちゃんと返事をしてちょうだいよ。私、黙っている多田先生なんてつまんない。」と、千夏が多田税理士をつっつく。

「あっはい。その初めて出くわした理屈だったんで、その頭を整理していたんですね。う〜ん、みなし贈与ですかあ。はあ〜。」と、タメ息の多田税理士。

「うん、、もう。タメ息なんてついちゃダメ。もっと、格好良くビシビシ反論してくれなきゃやだあ。そんな頑張りたくない訳ね。そんな態度だったら、あのことバラシちゃおうっかなあ。いいのかなあ。」と、千夏は上目遣いで多田税理士をじっと見つめるのであった。

「いいや。頑張りたくないとかそういう問題じゃなくて、頭の整理に時間がかかるものなんですよ。」

「私は、なんとなくだけど、税務署の方がおっしゃることが正しいような気がするなあ。」と、千夏。

 

「おいおい、止めてくれよ、そんな。3年以内の贈与だとしたら、相続税が増えてしまうんだよお。お前困るじゃないか。預金が減っちゃうんだよ。」と、慌てる隆。

「私はね、良く分からないけど、借地権ていう財産が、お父さんから会社に移転したことについて誰も文句はない訳でしょ。相続税の申告も会社の財産として株の評価に加えているんだからこれも誰も文句ないわよね。それに、みなし贈与の話も分かる気がするな。だって、おとうさんから会社に借地権が移動したことで、その前の株価より借地権分株価は高くなるのも分かる気がするな。だって、本当にあなたのもっている株の値段は上がる理屈じゃない。だったら、結果として、お父さんからあなたに株価が上がった分の贈与があったと考える方が自然なような気がするけどな、私。」

「おお奥さんは、素晴らしいですね。こんな短時間でみなし贈与の話を理解されるなんて。こんなに賢い女性に会ったのは久しぶりです。感激であります。いや〜素晴らしいですね、秋山さんの奥さんは。」と、上機嫌の山形調査官。

 多田税理士も、山形上席調査官の話しが正しいのかなあと、漠然と考えていた。「確かに、通達のみなし贈与の事例そのもののような感じもするが、しかし、何かこう釈然としないなあ。何かあるような気がするんだけどなあ。3年以内の贈与だとやはり、相続税に取り込まれることになるから修正申告せんといかんのかなあ。」などと、悩む多田税理士。「うん、あれしかないな。うん。そうだ、あれしかないんだけど。今回はなんて言おうかなあ。」


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