タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

10話『司法書士のタダ働き』

 (売上にすべき?) 9

 

中学の同級生で、大学生の頃付き合っていた元の彼女の知り合いの司法書士の税務調査に立ち会う。修正申告を断るものの税務調査は終わらない。)

 

「ああ。有限会社ケーケーは家内が社長の会社なんですよ。私の司法書士業務を委託している会社なんですね。私は、パソコンが全く使えないものですから、家内の会社に業務委託しているんですよ。文書作成や顧客管理をパソコンでしてもらっているんですよ。最近は、司法書士業務用ソフトもありましてね、なかかな便利な世の中になりましたよ。書式集も豊富ですしね。ほんと助かってますよ家内の会社には。」と、笑顔で話す北村司法書士であった。

 

「毎月支払金額が違っているんですねえ。80万円のときもあれば100万円を超える月もあるんですね。う〜ん。」と、総勘定元帳に目を落として考え込む北沢上席調査官であった。

 

 司法書士から妻が社長の会社へ業務委託をしていたことを初めて聞いた多田税理士は、今後の展開に思いを巡らそうとしていたのだが、特別思い当たることはなかった。『ふ〜ん。奥さんが社長の会社に業務委託しているのか。節税対策なのかなあ。まあ、本当に業務委託しているのなら問題はないと思うんだけどなあ。さあねえ。』

 

「で、北村さん。その有限会社ケーケーは他にどんな業務を委託されているんですか。」

 

「そうですね。パソコンによる業務管理や文書管理・出力に、給与計算に、経理業務でしょう。それに、電話応対や事務所内での受付事務や文書の届出等で外出したりしてますね。業務内容も多い月とそうでない月がありますのでね、委託料も少々変化するようにしていますし、その方が合理的だと考えたんですよ。それで、業務委託に何か問題があるんでしょうか。」と、税務署員からの質問に戸惑う北村司法書士であった。

 

「う〜ん。結局、司法書士としての法律判断業務にこそ司法書士報酬の重きがある訳であって、その業務委託といってもさほど専門知識が必要な訳でもありませんし、ただ司法書士であるご主人の指示に従って単純な事務をやっているだけじゃあないですか。経理業務だってパソコンで簡単にできますし、派遣社員の業務内容と変わらないんじゃないでしょうか。その業務委託料が月80万円とか100万円は高すぎるんじゃないですか。事務職の派遣社員の給料は月20万円程度がせいぜいじゃないですか。そうは思われませんか。」と、北村司法書士に問いかける北沢上席調査官。

 

「ええ。そんなこと言われましてもねえ。今まで、このやり方でやってきましたし。それに、パソコンやそのソフトなんかも会社で購入してまして、私の方が提供している訳ではないんですよ。それに、有限会社ケーケーはパートさんも雇ってますしねえ。会社として利益を出して納税もしているんですよ。そんな派遣社員に事務処理してもらってることとはまったく次元が違うと思うんですけど。多田先生は、どう思われますか。」と、北村司法書士。

 

 突然の北村司法書士からの質問に窮する多田税理士は、『う〜ん。そんな難しい問題を急に聞かれてもなあ。確かに奥さんには法律的な専門知識はあまりいらないんだろうなあ。』と唸ったまま答えられずにいた。

 

 単なる事務員の業務であれば、月の業務委託料としては高額過ぎるのかも知れない。しかし、司法書士の妻の会社だからといっても、その業務内容が他社に依頼した場合と同様ならば、その月額報酬が派遣社員の給料相当額よりも高額になっても不思議ではないのだ。

 

「簡単な業務内容にも拘わらず高額な委託料を支払った場合には、人材派遣会社の経費相当額までが必要経費と認められるんです。北村さんの場合、相当高額な業務委託料なので、人材派遣会社の経費を超える金額は家事費ということになりますね。つまり、必要経費ではないということですよ。今現在、人材派遣会社の経費を試算できないですが、署に戻って数社の人材派遣会社の費用を調べて、その平均額を必要経費と認めて、その平均額を超える業務委託費については否認することになるか、修正申告して頂くかは次回検討したいと思いますがいかがでしょうか。多田先生。」と、自信たっぷりの北沢上席調査官。

 

「そ、そんなあ。その有限会社ケーケーが行っている業務が人材派遣会社の経費程度の価値なのか、そうでないのか今すぐはっきりとは判断できないですよねえ。難しい問題ですよねえ。そんなに簡単に結論は出ないと思うんですけどねえ。」と、自信なげな多田税理士。

 

「ええ。そんなに難しい問題でしょうか。プリンターも妻の会社が購入してますし、パソコンのソフトの選択も妻の会社でやってもらってますし、登記申請書の出力でも、私は簡単な指示をするだけで、妻が今までの経験で取りあえず作成してくるんですね。それで、最終的に私が確認してOKとなるんですよ。そんな、簡単な文書入力とは訳が違いますよ。長年の経験も必要ですし、法律知識も人材派遣会社の職員とは比べものにならないくらい詳しくなっていますよ。お前も何か言いなさいよ。」と、妻に呼びかける北村司法書士。

 

「えっ。私はよく分かりませんし、もうすぐ辞めてしまうわけですし・・」と、下を向いて口ごもる北村司法書士の妻。

 

「おい。そんな辞めるだなんて内輪のことを話すんじゃないよ。まったく。」と、イラ立つ北村司法書士。

 

「え〜。会社辞めちゃうんですか。まあ、業務依頼を辞めるのか、会社自体を辞めるのかは自由なんでしょうけどねえ。まあ、税務調査は去年までの分が対象なので、将来業務委託がなくなるとしても何も問題にはなりませんよ。兎に角、業務内容とその金額の妥当性の問題ですからね。」と、北村司法書士なだめる多田税理士であった。

 

「パートさんを一人雇われているということでしたので、その分は高めに見積もることにしますが、人材派遣会社の経費を試算しますので、それから修正申告か更正かの話になると思います。」と、あくまで強気の北沢上席調査官であった。

 

「そそんな。話が早すぎるんじゃないでしょうか。私の方も、業務委託料と人材派遣会社の経費との関係を考えてみたいですしねえ。」と、多田税理士。

 

「私も、妻の会社への業務委託料が高過ぎるとは思いませんし、ちゃんと、業務委託契約書も取り交わしていますしね。そんな人材派遣会社と比べられるなんてちょっとおかしいと思うんですよ。なんとか言ってくださいよ多田先生。」と、まだイライラしている北村司法書士であった。

 

「はい。私も検討してみますので、少々お待ちくださいよ。難しい問題なんですから。それと、奥さんは何かおっしゃりたいことはないんですか。」

 

「いいえ、何もありません。もう私とは関係ないことですから。」と、北村司法書士の妻はにべもない。

 

「はあ。直接関係はないんですが、業務委託を辞められるんですか、それとも何かお仕事を始められるのでしょうか。いやいや、ないことでしょうが、今後お話を聞けなくなるようなことであれば、今の内に実際の業務内容なんかを詳しく聞いておく必要があると思いましてね。失礼があったらごめんなさい。」と、多田税理士。

 

「今月一杯はこのまま仕事をしますので、それまででしたらお話できると思います。今月までです。」と、強ばった表情の北村司法書士の妻。

 

一方、北村司法書士は、むっつりと黙り込んだまま、妻の話を補足する気はなさそうだ。

 

「私の方も、今月一杯には調査の結論がほしいところです。そんなに長引かせるつもりはありません。では、私どもは人材派遣会社の経費の平均額を試算してみますので、先生の方もどうぞご検討ください。では、本日のところはこれで失礼します。今回は、この業務委託の件で調査は終了するつもりです。次回の日程ですが、来週の月曜日の午前10時でお願いできればと思います。」と、北沢上席調査官。

 

「はい分かりました。」と、北村司法書士と多田税理士は返事をした。


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