タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

10話『司法書士のタダ働き』

 (売上にすべき?) 第7章

 

中学の同級生で、大学生の頃付き合っていた元の彼女の知り合いの司法書士の税務調査に立ち会うが、苦戦。沖山税理士に助けられホットする多田税理士であった。)

 

 沖山税理士から税務調査の対応を伝授してもらい多田税理士は安心していた。そして、翌週の月曜日に北沢上席調査官からの次回の税務調査の日程調整の電話を受け、金曜日の午前10時に次回の税務調査とすることにしたのだった。北村司法書士の都合も良いそうであった。

 

 税務調査対応の事前準備が整った多田税理士は、気分が軽かった。『今度の税務調査でバッチリ決めたら、北村司法書士さんも喜んで真美に報告してくれるだろうなあ。えへへ。それで、頼もしいなって見直されたりしちゃって。えへへ。また、昔にみたいに付き合うことになったりしちゃったらどうしよう。えへへ。』と、一人妄想にふけるのであった。間もなく、多田税理士の携帯電話がなった。山谷真美からであった。

 

「もしもし、山谷ですけど。」

「ああ、もしもし。どうも、どうも。」

「今、多田君電話大丈夫かな。」

「うん、全然大丈夫よ。どうかしたん。」

「うん、それがね。就職のことで考え込んじゃっているんよ。どうしようかなって。それでね、多田君に相談に乗ってもらおうかなって思って電話したんだ。」

「ああ、いいよ。で、どんなことかな。」

 

「うん、ありがとう。でね、電話じゃなんだから、今週の金曜日にでも食事に行かない。あっ、もし他に用事がなかったらなんだけど。」

「うん、いいよ。今度の金曜日だったら空いてるし、北村司法書士さんの調査も金曜日なんだ。多分、今回で終りだと思うけどね。結果報告も兼ねて丁度いいかもね。」

 

「うん、ありがとう。でね、突然だけどさ『覆水盆に返らず』ってあるじゃない。やっぱ、それって当っているのかなあ。多田君どう思う。」

「ええっ。あの、一度こぼれた水は二度とお盆にはもどらないってことだよね。確か、一度別れた夫婦はもとには戻らないって意味のやつかなあ。」

「うん、多分そんな意味だとおもうわ。」

「う〜ん。そうだね、一度別れたカップルが元通りになることってあんまりないと思うな。でも、僕の実家の隣のね、コウイッチャンはね、別れた奥さんと再婚したんだって。やはり、子供がカスガイになったのかもしれないね。で、どうして、そんなことが気になるのかな。まさか、別れた旦那とまた結婚することにでもなったのかなあ。」と、気になる多田税理士。

 

「ううん。そんな、せっかく別れたのに、前の亭主なんてごめん蒙りたいわ。ただ、覆水が盆に返るってどうかなって思ってね。でも、実際にいるんだね。別れた夫婦が二度結婚するなんてね。」

「うん。めずらしいけど、あるみたいだね。でも、当人同士がそれでいいんだったらそれでいいんじゃないかなって思うけど。僕はね。」

「そうよね。二人がそれで良かったらいいんだよね。うん、そうだね。どうも、ありがとう。じゃあ、金曜日にね。」

「ああ、そうだね。金曜日にね。」携帯電話を終わった多田税理士は考え込んでしまった。

 

『ふーん。覆水盆に返らず、を気にする訳ね。俺達も、何度も覆水はあったよなあ。彼女は水を俺の盆に返したいのかなあ。だったらどしよう。そうだ、前も彼女から復縁しようって言ってきたこともあったよなあ。結局彼女に振られちゃったけど、お互い嫌いになって別れたわけじゃないしなあ。うん、そうかも知れんなあ。復縁を迫られたらどうしようかなあ。ふふふ。』と、一人ほくそ笑む多田税理士であった。

 

 そして、金曜日の午前10時が来た。多田税理士は、北村司法書士事務所のソファーに座っていた。そして、程なくして、北沢上席調査官もやってきた。税務調査の再会だ。

 

「前回は、私のポカですみませんでした。」と、軽く頭を下げる多田税理士。

「いえいえ、もう結構ですから。それでは、さっそくなんですけれども、修正申告の件はお考え頂いたでしょうか。」

 

「はい。検討させて頂きました。当方の結論から申しますと、修正申告の必要はないと考えます。確かに、白紙のコピー用紙は事務用消耗品であり、家事に消費してしまったら所得税法第39条の自家消費売上に計上すべきなんでしょうが、その金額は、白紙のコピー用紙代そのものであって、その白紙のコピー用紙を使用してなされた業務報酬相当額ではありません。北村司法書士さんは、法人ではありませんので、無報酬の役務の提供について、時価取引を強制されることはありません。ですから、コピー用紙代はだいたい5枚で4円程度ですから、たとえ500枚でも400円ですから、ごくごく少額ですし、端数切捨てかも知れませんので、今回はそんな僅かな金額での修正申告はするつもりはありません。コピー用紙を、業務相当額で販売しているのではありません。」と、言い切る多田税理士。

 

「う〜ん、しかし。棚卸資産である事務用品をですね、私的に消費したのですからね。自家消費売上を計上して頂かなければならない訳でして。」と、食い下がる北沢上席調査官。

 

「ですから、事務用消耗品の自家消費があったことは認めますよ。ただし、その金額がまったく違いますよってことです。自家消費したのは、白紙のコピー用紙そのものですから、500枚で400円程度ですよ。業務報酬相当額なんてあり得ませんよ。どうぞ、更正して下さいな。1,000円未満切捨てかも知れませんし、切上げで1,000円課税所得が増加しても増加する所得税なんかたかが知れてますよ。なんでもかんでも修正申告してたら何ぼ時間があっても足りませんよ。どうぞ、更正して下さい。」

 

「こっ更正だなんて、そんな大変なこと・・。じゃあ、この条文のコピーを見てください。自家消費じゃなくても、収入すべき金額とは、金銭以外の物又は権利その他の経済的利益をもって収入する場合には、その経済的な利益の金額を収入金額とすべきと書いてあるじゃないですか。だから、金銭をもらっていなくても、業務報酬相当額の経済的利益の移転があったのですから、業務報酬相当額の収入すべき金額を認識すべきなんです。」と、コピー用紙を差し出す北沢上席調査官であった。

 

とっさの反論に、その意味するところが掴めない多田税理士は、コピーの文書を身を乗り出して眺めるのであった。その内容は、所得税法第36条と法人税法第22条の条文のコピーであった。しばし、沈黙の時間が流れた。多田税理士の頭脳は、知恵熱が出そうなほど回転していた。想定外の調査官からの反論に又しても即答が出来ない。トイレ電話も使えない状況に焦りまくる多田税理士であった。

 

劣勢に陥ったかの様子の多田税理士だが、沖山税理士の勉強会を必死に思い出していたのだった。所得税法第36条は、所得税法の基本中の基本なのだ。何度も、同じ講義を受けていた多田税理士は、なんとか単独で解決したいと考えていたのだった。そして、気がついたのだった。

 

「その収入すべき金額とはですね、相手方と契約した金額のことを言うのであってですね、金銭でもらわなくても、経済的な利益をもらった場合でも、収入金額にしなければならないという意味でしょう。例えば、飲食店の方に業務依頼されて、その報酬を金銭でもらわなくて、そのお店の料理や酒を、その業務報酬相当額だけ提供してもらう約束の場合のように、その役務の提供の代金として、相手方との契約金額相当額の経済的利益を受け取る場合を含むという意味ですよ。今回の場合の役務の提供の対価は無償ですよ。0円が、収入すべき金額ですから、業務相当額の収入すべき金額という意味ではありません。」と、自分でも不思議なくらい返答できたことに驚く多田税理士であった。

 

北沢上席調査官は、予想外の反論だったのか黙ってしまって、言葉が出てこない。

 

「それに、法人税法第22条の条文は、法人による無償の役務の提供に時価取引を強制する条文ですが、北村さんは個人事業主ですからね。法人税法なんてもってくるのはおかしいでしょう。」

 

次に、北沢上席調査官のトンでもない発言が・・。

 


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