タックスエンターテイメント小説 〜

「税務調査最前線」

10話『司法書士のタダ働き』

 (売上にすべき?) 6

 

(中学の同級生で、大学生の頃付き合っていた元の彼女の知り合いの司法書士の税務調査に立ち会うが、用事があると時間稼ぎをする多田税理士であった。)

 

「はあ〜。なるほどですねえ。棚卸資産である事務用消耗品を私的に消費した場合の自家消費売上にしなければならない金額は、その消費したコピー用紙そのものの金額だけであって、そのコピー用紙を消費した業務相当額ではないんですね。」と、自分なりの理解するところを話す多田税理士。

 

「そうなんよ。今回の場合、友人のために業務に使った事務用消耗品の消費だから、自家消費ではなくて、棚卸資産の贈与であって所得税法40条が適用されると考える方が妥当だと思うけどね。でも、端数切捨て程度の金額だからねえ。それを、あえて修正申告を書こうとしても1、000円未満端数切捨てで、税額は変わらないんじゃないの。仮に、枚数が増えたそしてもさ、コピー用紙5枚使っても4円の世界だよ。10枚に増えても8円よ。100枚増えても80円よ。アハハ、冗談の世界やねえ。」

 

「アハハ。そうですよね。ほとんど冗談の世界ですね。それに、課税庁からの更正処分があるまでは、修正申告ができる訳ですから、こんな僅かの金額である場合には、修正申告を選択しなくてもいい訳ですよね。それに、端数切捨てで当初申告と同額になるかもしれない訳なんですね。なんか、おもしろいですねえ。ほんと、笑っちゃいますねえ。」と、多田税理士も笑う。

 

「その調査官がどう思って自家消費売上げだと主張するのか、論理的な主張が分からないけどね、法人の場合と同様に考えているフシがあるよねえ。法人税法22条にはね、無償による役務の提供も益金の額に算入すべきと規定してあるからねえ。法人税の世界では基本中の基本やもんね。それを、所得税法でも同様に扱うように勘違いしているとしか思えないんだがねえ。」と、調査官の指摘に自分なりの推測で解説する沖山税理士であった。

 

「あっ、そうですよねえ。無報酬による役務の提供を司法書士法人や税理士法人が行った場合には、法人は時価取引が強制されるから、無報酬による役務の提供は、その業務相当額は売上にせねばならない訳ですよね。それで、その業務が役員個人の業務だと、同額の臨時の役員給与となるし、職員のための業務だと給与となる訳ですよね。また、法人に直接関係のない人に対しては寄付金になるんですよねえ。」

 

「うん、そうそう。司法書士法人が、今回のような無報酬の業務をした場合にはね、その業務相当額の売上を計上することになるし、代表社員の友人のためにした業務の代金をいらないよ、と言ったようなもんだから、これは代表社員の臨時の給与となって、損金不算入になるやろね。代表社員本人は、賞与となって所得税の課税の対象になるよねえ。いわゆる往復ビンタっちゅうわけよね。」

 

「あはは。そうですね往復ビンタですね。法人税も課税されるし、個人の所得税も課税されるんですよねえ。今回は、時価取引が強制される法人ではないので、コピー用紙代の自家消費売上や贈与による売上は適用されるとしても、ごくごく少額の話ですし、業務相当額の売上計上は考えられないですよね。先生、ありがとうございます。よく分かりました。」

 

「おっ、分かってくれたんね。そりゃあ良かった。これで、税務調査も頑張れるやろうもん。まあ、なぜ自家消費売上を計上せねばならいのか、論理的な説明があれば連絡してね。どんな屁理屈か聞いてみたいもんじゃね。アハハ。」

 

「いやあ。その時は、お電話させて頂きます。本日はどうもありがとうございました。」と、携帯電話を持ったままペコリとお辞儀をする多田税理士であった。

 

 多田税理士は、たとえ売上計上の法的必要性があったとしても、その金額がごくごく少額であった場合には、課税庁に更正処分をするよう要請するつもりになっていた。また、更正しようにも、課税対象が少額すぎて税額に変化がないのかも知れないのだ。多田税理士は、気分は軽やかとなっていた。そして、ほとんど無意識のように山谷真美の携帯に電話をかけるのであった。

 

「もしもし。あっ、僕だけど。」

「あらあ、どうしたの。」

「うん、今、北村司法書士さんの税務調査が終わったところなんだ。なんとかいけそうなメドがたってねえ。ちょっと安心したもんだから報告かたがたに電話してしたんだ。」

「へえ〜、そうなんだ。なんとかなりそうなんだ。すごいね多田君。じゃあさあ、前祝に居酒屋さんにいこうよ。ほら、駅前に座和民ってあるじゃない。まだ私行ったことないから、そこでどおおかなあ。」

「ああ、いいねえ。じゃあ、今日の夕方630分頃に車で迎えに行こうか。」

「うん。じゃああの水産会社の事務所の前に出てくればいいんよね。」

 大学生時代に付き合っていた二人のデートの打合わせは、以前と同じように滑らかであった。

 

 座和民に午後7時に到着。二人はすんなり入ることができた。注文を済ませ、生ビールで乾杯する二人。

 

「かんぱーい。」「かんぱーい。」カチャン。

北村先輩が、あれだけ苦労してた税務調査なのに。もうメドがつきそうだなんて、多田君ですごいんだ。さすが、本職の税理士さんだね。」

 

「いやあ。最初は、税務調査官が何を言いたいのかよく分からなかったんだけどね。まあ、ちょっとした勘違いのようなもんだと分かったんだ。たまにあるんだよね。課税する根拠がズレてたり、思い込んでいたりね。今回もそんなところかな。」

「じゃあ、税務調査も終わって北村先輩も安心できたんだよね。」

 

「あっ、いや。まだ調査は残っているんだ。来週にあと一回だけ予定しているんだよ。その最後の詰めを検討していたら何とか修正申告をしなくて済みそうだってことに気付いたんだよ。」

「ふ〜ん、そうか。結局、何がどうなったの。私なんかが聞いても分からないかもしれないけどね。」

 

「う〜んとね。居酒屋さんだと刺身なんかの食材は、棚卸資産といってね、特別な取決めがされててね、店主が自分で食べてしまったり、店主の友人なんかに無償であげちゃった場合にはね、特別にその棚卸資産の売上げを計上しなさいってことに所得税の上では決められている訳ね。だって、店主が食べたり友人に贈与した棚卸資産は、他の仕入れた食材と共に必要経費に含まれているからね。」

「ふ〜ん。商売だから、食材を自分で食べてしまうってことは、自分が売上代金を払ってなくても、その分は必要経費に入っているから、それに見合うを売上を上げなさいってことかな。」

 

「ううん。まあ、そんなようなもんだね。それでね、司法書士の業務で使うコピー用紙は棚卸資産だから、そのコピー用紙を消費して行った業務は、無報酬であってもその業務相当額の売上を上げなさいって税務署は言ってきた訳よ。」

「ふ〜ん。なんとなく分かるような気がする。」

 

「うん、僕も最初はそう思えたんだけど。なんかこう、勘っていうかな。どうもしっくりこなかったんで、色々調べたらね。確かに司法書士のコピー用紙は、居酒屋の食材のようにね棚卸資産なんだけど、その棚卸資産を自分の個人的な用事に消費したとしてもね、その売上に計上すべき金額はコピー用紙の代金であって、無報酬の業務相当額ではないんよね。」

「ふ〜ん。なんか難しい話でピントこないね。でも、私が経理の仕事をするようになれば、そんな知識も必要になるのかしら。」

 

「えっ、就職先が決まったの。」と、驚く多田税理士。山谷真美が経理担当で就職すれば、仕事上の話など共通の話題も増えるし、多田税理士自身も山谷の仕事の役に立てるのではないかと喜んだのだった。

「ううん。まだ決まった訳じゃないんだけど。ちょっとした話があってね。もし、経理関係に進むとしたら、多田君いろいろと教えてね。」

 

「ああ、いいとも。僕が出来ることは何でもするからね。気軽に連絡してね。」と、微笑む多田税理士。昔話に花が咲き、午後11時には別れた二人であった。

 


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